移動目的は「より良いエサ場」を見つけるため?
フジツボは、貝類と同じ軟体動物と誤解されがちですが、実際はエビやカニなどの甲殻類に属します。
1829年に、フジツボが、甲殻類と同じ自由遊泳性のノープリウス幼生として孵化することが判明し、それから甲殻類に分類されるようになりました。
成熟したフジツボは、数ミリ〜数センチほどで、海底岩や他の生物に固着します。
食事は、蔓脚(まんきゃく)と呼ばれる手足を使って、海水中のプランクトンをろ過して食べています。
また、固着については、セメントとなる接着物質を分泌することで、自らを固定します。
本研究主任のベニー・チャン氏は「学生の一人がカニの甲羅に固着したフジツボ(Chelonibia testudinaria)をアクリル板に移すことに成功したのをきっかけに、本種の移動性を実験的に検証することにした」と話します。
このC. testudinariaは、ウミガメの皮膚や甲羅に固着することで知られる種です。
実験では、アクリル板に移した15匹のC. testudinariaを1年間にわたって時系列写真で追跡。
さらに、スペインの研究チームと共同で、飼育下にある5匹のアカウミガメの甲羅に付着させたC. testudinariaの動きを数ヶ月にわたって追跡しました。
その結果、カメに固着していたC. testudinariaは、16週間で54ミリ移動していることが判明したのです。
アクリル板の個体も同様に動いており、板上には幾層にも重なったセメントの痕跡が残されていました。
これは、フジツボが一度固着したセメントを部分的に溶かして、少しずつ移動していることを示唆します。
フジツボは、ほとんどの場合、海流の流れに逆らって移動しており、水の流れの圧力だけで移動しているわけではないことも示されました。
また、フジツボ同士の距離が縮まっていないことから、交尾の機会ではなく、水中のプランクトンをろ過するためのより良い場所を探していると考えられます。
本研究には参加していないハワイ大学マノア校(University of Hawaii at Manoa)のタラ・エソック=バーンズ(Tara Essock-Burns)氏は、こう述べています。
「この結果から、ウミガメに固着するC. testudinariaには、他のフジツボ種とはまったく異なる生化学を持っている可能性があります。
半永久的に固着するフジツボとは違い、セメント自体に柔軟な特性があるのかもしれません」
研究チームは今後、この点も含めて、個体群がひしめき合う潮間帯のフジツボにも移動能力があるかどうかを調査する予定です。