理論上もっとも低い温度
普段何気なく温度という言葉を私たちは使っていますが、温度とは原子の持つ運動エネルギーのことです。
温度が高いとき、原子や分子は激しく動いてエネルギーを伝えてくるため、熱いあるいは暑いと人間は感じるのです。
逆に原子が運動をしなくなると、冷たいあるいは寒いと感じるようになります。
ではこの世界に存在するあらゆる原子が停止してしまうとどうなるのでしょう?
それが理論上もっとも低い温度である「絶対零度」で、その温度は「マイナス273.15℃」です。
すべての物質が止まってしまうため、物理的にはこれより低い温度は存在しません。
しかし、そんなすべての運動が静止した世界でも量子的なゆらぎは存在しています。
そのため、絶対零度に近づくと物質は通常では見せない非常に奇妙な振る舞いをし始めるのです。
その代表的なものが、「ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)」です。
これは固体・液体・気体・プラズマに次ぐ物質の第5の状態とされています。
このとき物質(個々の原子)は粒子の集まりとしてではなく、物質波として1つの波動であるかのように振る舞うのです。
これは重力によって支配される巨視的世界と、量子力学が支配する微視的な世界の境界をまたいだ状態だといわれます。
ただ、この状態を作るにはあまりに必要な温度が低すぎることや、観測行為自体が状態を壊してしまうなど、非常に不安定なため詳しいことはまだわかっていません。
絶対零度に近づいたときの奇妙な現象は、他にもいろいろと報告されていて、2017年に『Nature Physics』に掲載された研究では、光が容器に注ぐことのできる液体の状態になると報告されています。
このような不思議な現象を解明するため、研究者たちはできる限り絶対零度へ近づくための試みを続けているのです。
そして今回、ドイツの研究チームは、粒子がほぼ完全に停止する低温からわずかに38pKだけ高いという温度に到達することを成功させたのです。