万能細胞から作られたサルの精子には受精能力があった
実験は、サルの万能細胞(ES細胞)を精子細胞に変化させることからはじまりました。
用いた手順は、ヒトおよびマウスのES細胞から、精子を作る方法が参考にされています。
結果、完全な精子は得られなかったものの、頭部部分だけの、丸い未熟な状態の精子(rSLCs)を作り出すことに成功します。
問題は、この未熟な精子にも受精能力が備わっているかです。
さっそく研究者たちは受精能力を確かめるため、サルの卵子にこの精子を注入してみました。
すると、受精は成功し、受精卵の分裂がはじまりました。
しかし残念なことに、受精卵の分裂は4~8細胞の段階で停止してしまいます。
原因は、受精初期に必要な、精子遺伝子の「リセット」の失敗でした。
年老いた父親が作った、年老いた精子から若い赤ちゃんがうまれるのは、卵子によって遺伝子の修復が行われる他に、脱メチル化という遺伝子の封印解除(一種のリセット)が必要だからです。
そこで研究者たちは受精卵の内部に脱メチル化酵素(TET3)と脱アセチル化作用のあるトリコスタチンAを加えて、再度プロセスを実行させてみました。
すると胚発生が進行し、今度は複雑な胚盤胞の形態にまで達したことが確認されました。