「文字の出現」が脳を小さくさせた⁈
調査の結果、ヒトの脳は、約210万〜150万年前に大きくなったのですが、3000年前頃から縮小に転じたことが判明したのです。
これは従来の推定年代とは違い、脳の縮小がごく最近に起こったことを示します。
興味深いのは、3000年前という時代が、歴史的記録に文字システムが登場してから数千年後である点です。
人類は文字を手にしたことで、各人のうちに蓄積されていた知識や情報を外在化し、他者と共有できるようになりました。
要するに、脳の縮小は、人類社会における集団的な知性の拡大と平行して生じた可能性があるのです。
主著者の一人で、ダートマス大学(Dartmouth College・米)のジェレミー・デシルバ(Jeremy DeSilva)氏は、次のように説明します。
「もし集団での意思決定が、個々人の意思決定の認知的な正確さや速さを上回る反応をもたらしたとすれば、ヒトの脳サイズは、代謝コストの削減の結果として減少したのかもしれません。
『知的な脂肪(intellectual fat)』をカットすることで、脳はより少ない数の仕事をより効率的にこなせるようになったのでしょう」
本研究の成果は、チームの新仮説に重みを説得力を与える一方で、すべてを説明したことにはなりません。
集合知の拡大のほかに、氷河期以降の食生活の変化や体の小型化が関係している可能性もあります。
たとえば、「ベルクマンの法則」が示すように、寒い地域に住む動物(ヒトも含む)ほど、体は大きく太くなり、熱い地域に住む動物ほど、体は小さく細くなります。
つまり、氷河期が終わって地球が温かくなるにつれ、ヒトの体が小さくなり、それに応じて脳容積も縮んだのかもしれません。
今回の結果は、脳サイズをめぐる謎を完全に解明するものではないですが、その一因として興味深いモデルを提示しました。
研究チームは今後、仮説の実証を目指して、調査を続ける予定です。