実は強かったミノムシの糸
これまで天然由来のシルク繊維の中では、クモが産生する糸が最強といわれてきました。
しかし近年、ミノムシのミノを構成する糸や、枝からぶら下がるために使っている糸の方が、実は弾性率・破断強度・機械敵強度の全てにおいて、クモの糸を上回っていることがわかったのです。
ミノムシとは、ガの幼虫のことで、枯れ葉や枯れ枝を粘着性の糸に絡めて袋状の巣を作り枝からぶら下がって生活します。
この巣が、日本ではわらを使った雨具の「蓑(みの)」に似ているため、ミノムシと呼ばれています。
クモの糸も天然材料として研究の対象とされてきましたが、それより強いのであれば、これを利用して新しい繊維材料を生み出せる可能性があります。
そこで、今回の研究チームはミノムシの糸を利用した新しい複合繊維を合成しようと考えたのです。
チームがその合成材料として着目したのは、ポリアニリンと呼ばれる導電性高分子です。
ポリアニリンは、原料が安価で簡便に合成できる特徴があり、主に電池用電極や導電性インクなどに用いられています。
チームはこのポリアニリンとミノムシの糸を、水に浸して合成しました。
これは非常にシンプルな方法で、アニリンという物質が酸化剤によってポリアニリンに変化するのですが、その過程を利用してミノムシの糸の表面に水素結合で吸着させたのです。
これは顕微鏡で観察すると、きれいにミノムシの糸の表面にポリアニリンがコーティングされている状態となっていました。
また繊維の絡まった場所でも、繊維の一本一本をはっきりと見ることができました。
こうして誕生した新しい天然シルクを利用した新しい繊維ですが、これにはさまざまな驚きの特性が確認されるのです。