脂質のバランスを崩すとがん増殖を抑えられる
私たちの体が必要とする脂質は主に2つの種類に分けられます。
1つ目は飽和脂肪酸、もう1つは不飽和脂肪酸です。
脂質から細胞膜を作るには、両方が適度な割合で必要となります。
また2つのバランスの維持には通常、SCD(ステアロイルCoAデサチュラーゼ)と呼ばれる飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸を作る酵素が必要です。
研究者たちが分析したところ、カロリー制限食とケトン食の両方に、SCDを不活性化させる機能があることが判明します。
しかしケトン食には多くの脂質が含まれているために、そもそもSCDを使う必要がありませんでした。
つまり腫瘍の成長を阻害していたメカニズムは、カロリー制限によって脂肪のバランスを維持する酵素であるSCDが不活性化し、細胞膜の生産に支障をきたした、というものでした。
単純なカロリー制限が単純なエネルギー収支ではなく、脂質バランスを維持する酵素に影響を与えていたという結果は、代謝のメカニズムの複雑さを感じさせます。
問題は、マウスで得られた結果が人間にも適応できるかです。
研究者たちは、これまでの結果をもとに、人間のすい臓がん患者たちの食事と腫瘍の成長過程を比較しました。
結果、糖質を制限している患者の場合、消費された脂肪の種類が、最も腫瘍の成長と相関があることが判明します。
それではと、研究者たちはケトン食をとっていたマウスの飽和脂肪酸のレベルを上げてみました。
結果、効果がないと思われていたケトン食でも、飽和脂肪酸が優勢になるほど(不飽和脂肪酸を避ければ避けるほど)腫瘍の成長速度が遅くなることを確認しました。