サメは魚たちにとって海のブラシだった
よく知られているように、サメの肌というのはまるでヤスリのようになっています。
江戸時代には宮大工が実際ヤスリ代わりに鮫皮を使っていたとされ、日本では鮫皮が刀剣の柄の滑り止めから、おろし器まで幅広く利用されてきました。
映画ジョーズの中でも、泳いでいるサメと接触した女性の肌が血まみれに裂けるシーンを記憶している人もいるでしょう。
これはサメの皮膚が皮膚歯状突起と呼ばれる小さな歯のような鱗で覆われているためです。
獰猛な捕食者な上に、肌がおろし金とか、どんだけ他者を拒絶する恐ろしい生き物なんだ、と感じた人も多いかもしれません。
しかし、これが海の中では人気者の証となっていた可能性があるようです。
魚たちが危険なサメをわざわざ探し出して近づき、体を擦り付けるのは、自身の体についた寄生虫や皮膚刺激物を除去するためである可能性が高いのです。
魚が、砂や岩など無生物に体を擦り付ける行動はよく知られています。
しかし、わざわざ捕食者であるサメを使うというのはかなり変わった行動です。
研究者たちは「正確なところはわかっていない」と前置きした上で、「これが魚の健康と体力を向上させるために重要な役割を果たしているのではないか」と述べています。
陸生の動物で、わざわざ捕食者を探して近づき、体を擦り付けて皮膚の健康を維持するという行動は、確認されたことがありません。
これは、海の動物にだけ見られる自然界で唯一のシナリオのようです。
危険な捕食者でありながら、サメはなにもない海のど真ん中では、魚たちの皮膚の健康を保つ海のブラシとなっていたようです。