水深8000m級の暗闇に潜む「新種生物」を発見
今回の新種生物が見つかったアタカマ海溝は、南米の西側ペルーとチリの沖合い約160キロの地点にある海溝で、ペルー・チリ海溝とも呼ばれます。
全長は約5900キロメートル、平均幅は約64キロに達し、最も深い場所は8065メートルに達します。
世界一高い山のエベレストが標高8848メートルですから、エベレストをひっくり返した深さとほぼ同等と言えるでしょう。
研究チームは2023年にアタカマ海溝の生態調査の一環として、餌付きトラップを深海底に沈め、何らかの生物が採取できるかどうかを調べました。
すると水深7902メートルという驚異的な深さから4匹の生物が捕獲されたのです。
体長は4〜5センチほどですが、その生っ白く、ぬめりとした見た目は映画『エイリアン』シリーズでお馴染みの顔に張り付くフェイスハガーによく似ていました。
実際の画像がこちら。
彼らが棲息する水深7902メートルというのは「ヘイダル・ゾーン」という領域にあたります。
海の世界はその深さに応じて、次のように区分けされるのが一般的です。
・有光層(エピペラジック・ゾーン):水深0〜200メートル
・中深層(メソペラジック・ゾーン):水深200〜1000メートル
・漸深層(バシペラジック・ゾーン):水深1000〜3000メートル
・深海帯(アビサル・ゾーン):水深3000〜6000メートル
・超深海帯(ヘイダル・ゾーン):水深6000メートル以上
捕獲された生物のいるヘイダル・ゾーンは海の中で最も深い領域であり、光のまったく差さない暗闇の世界となっています。
ヘイダル・ゾーンという呼び名も、そこが冥界のような場所であることから、ギリシャ神話に登場する冥府の神・ハデスにちなんだものです。
さらにチームが形態調査およびDNA分析を行った結果、この生物は甲殻類の一グループである「テンロウヨコエビ科(Eusiridae)」に属するものの、それ以上は過去に記録がなかったことから、新属新種の生物であると断定されました。
チームは本種が冥界のような暗い世界に住んでいることを踏まえ、南米のアンデス地方で「闇」を意味する言葉を取り入れた「ドゥルシベラ・カマンチャカ(Dulcibella camanchaca)」と命名しています。
また研究者らは、本種の形態や棲息環境から、この生物がヘイダル・ゾーンでは珍しい「ハンター」であることを突き止めました。