あらゆる物理方程式が何らかの「裏ルール」に従っている可能性が示唆される
あらゆる物理方程式が何らかの「裏ルール」に従っている可能性が示唆される / Credit:clip studio . 川勝康弘
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あらゆる物理方程式が何らかの「裏ルール」に従っている可能性が示唆される

2024.11.26 Tuesday

ノーベル賞のメダルでオセロができる発見です。

イギリスのオックスフォード大学(University of Oxford)で行われた研究により、全く異なる物理法則について記された数式であっても、共通する神秘的なパターンに従っていることが示されました。

この結果は、一見して異なる物理現象について述べている数式でも、隠れた「裏ルール」に従っている可能性を示しています。

研究者たちは「私たちの発見は自然のメタ法則、つまり全ての物理法則が従う法則への扉を開くものである」と述べています。

つまり歴史上の物理学者は、自然法則という1つの巨大なゾウを異なる角度から見てさまざまな数式を描いていたものの、それら1つ1つをよく見ると、同じ「ゾウ」を描いたことを示す何らかの共通する特徴が残ってたというわけです。

もし人類がこの「自然なメタ法則」を完全に理解することができたのならば、あらゆる物理法則を統合する究極理論や、人間の認知機能では発見が難しかった新法則の形成に役立つでしょう。

今回は研究の鍵となる「メタ」という概念についてアニメやマンガの例を用いてわかりやすく解説すると共に、普遍的パターンがどのような方法で発見されたを紹介したいと思います。

(※「メタ」の解説が不要という人は2ページ目以降から読み始めて下さい)

研究内容の詳細はプレプリントサーバーである『arXiv』にて「物理方程式の統計パターンと自然のメタ法則の出現(Statistical Patterns in the Equations of Physics and the Emergence of a Meta-Law of Nature)」とのタイトルで公開されています。

Statistical Patterns in the Equations of Physics and the Emergence of a Meta-Law of Nature https://doi.org/10.48550/arXiv.2408.11065

物理法則を題材に「メタ発言」をやってみた

アニメやマンガなどで使われる「メタ」という概念は実はとっても高度なものです
アニメやマンガなどで使われる「メタ」という概念は実はとっても高度なものです / Credit:clip studio . 川勝康弘

アニメやマンガでは登場キャラクターはしばしば「このアニメって基本〇〇だよね」や「○○君って映画版になると調子よくなるよね」など作品と現実を隔てる壁を超える発言を行い、視聴者を困惑させることがあります。

このような作品を飛び出して外部から俯瞰(ふかん)するようなセリフはしばしば「メタ発言」と呼ばれ、メタ発言によって超えられる作品と現実の間の壁は「第4の壁」と呼ばれることもあります。

メタ発言は上手く使えば視聴者の共感を得られる場合もありますが、作品の世界観を台無しにしかねない危険なものにもなり得ます。

一方、科学分野では、他人によって作成された複数の論文のデータを統合して、新たな知見を導くことを「メタ研究」と呼んでいます。

1つ1つの論文が研究者が構築した世界とすると、メタ研究はそれらを複数集めて俯瞰的な視点で眺め、より普遍的な答えに辿り着くことを目指しています。

同様のメタの概念は物理法則や数式についても当てはまります。

特定の物理法則について描かれている数式は、その法則を規定する1つの世界のようなものです。

たとえばニュートンの運動法則は「物体の運動」について1つの世界観を提示しています。

そこにはアニメやマンガの登場人物に相当するE(エネルギー)やM(質量)、V(速度)など固有の名前と役割を持つ記号が登場し、それらが協力し合って1つの世界観、つまり数式を組み立てています。

ただアニメやマンガと同じく、ニュートンの運動法則が描く世界観は、他の物理現象についても同じように当てはまるわけではありません。

ドラゴンボールとナルトの世界観が噛み合わないように、ニュートンの運動法則と量子力学の描く世界観の間にも嚙み合わせられない部分が存在し、それぞれの数式に使われる記号も大きく異なるものになっています。

そのため異なる物理法則を記述する数式は、他の物理法則とは切り離して考えることが一般的です。

学校のテストでも電磁気学の問題を解くのに熱力学の公式を当てはめようとする人は「愚か者」と言われてしまいます。

結果として、人類は場面にあわせて無数の物理法則と数式を発明することになりました。

物理学の歴史は、新たな法則や新たな数式の発見の歴史とも言えるでしょう。

そして新たな法則や数式が増えるたびに、新たな記号の追加も進んでいきました。

しかし増え続ける法則や数式、記号について疑問を抱いている人々も存在していました。

物理法則は無数に存在しますが、自然は1つです。

つまり無数の物理法則は、自然という1匹の巨大なゾウをさまざまな角度から描いたに過ぎない可能性があったのです。

そこで今回、オックスフォード大学の研究者たちは「メタ的な」視点を採用し、異なる法則について記述されている数式を分析し、背後に潜んでいる「ゾウ」あるいは「裏ルール」が存在するかを確かめることにしました。

次ページあらゆる物理法則が従う「裏ルール」が存在する

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