物理法則を題材に「メタ発言」をやってみた
アニメやマンガでは登場キャラクターはしばしば「このアニメって基本〇〇だよね」や「○○君って映画版になると調子よくなるよね」など作品と現実を隔てる壁を超える発言を行い、視聴者を困惑させることがあります。
このような作品を飛び出して外部から俯瞰(ふかん)するようなセリフはしばしば「メタ発言」と呼ばれ、メタ発言によって超えられる作品と現実の間の壁は「第4の壁」と呼ばれることもあります。
メタ発言は上手く使えば視聴者の共感を得られる場合もありますが、作品の世界観を台無しにしかねない危険なものにもなり得ます。
一方、科学分野では、他人によって作成された複数の論文のデータを統合して、新たな知見を導くことを「メタ研究」と呼んでいます。
1つ1つの論文が研究者が構築した世界とすると、メタ研究はそれらを複数集めて俯瞰的な視点で眺め、より普遍的な答えに辿り着くことを目指しています。
同様のメタの概念は物理法則や数式についても当てはまります。
特定の物理法則について描かれている数式は、その法則を規定する1つの世界のようなものです。
たとえばニュートンの運動法則は「物体の運動」について1つの世界観を提示しています。
そこにはアニメやマンガの登場人物に相当するE(エネルギー)やM(質量)、V(速度)など固有の名前と役割を持つ記号が登場し、それらが協力し合って1つの世界観、つまり数式を組み立てています。
ただアニメやマンガと同じく、ニュートンの運動法則が描く世界観は、他の物理現象についても同じように当てはまるわけではありません。
ドラゴンボールとナルトの世界観が噛み合わないように、ニュートンの運動法則と量子力学の描く世界観の間にも嚙み合わせられない部分が存在し、それぞれの数式に使われる記号も大きく異なるものになっています。
そのため異なる物理法則を記述する数式は、他の物理法則とは切り離して考えることが一般的です。
学校のテストでも電磁気学の問題を解くのに熱力学の公式を当てはめようとする人は「愚か者」と言われてしまいます。
結果として、人類は場面にあわせて無数の物理法則と数式を発明することになりました。
物理学の歴史は、新たな法則や新たな数式の発見の歴史とも言えるでしょう。
そして新たな法則や数式が増えるたびに、新たな記号の追加も進んでいきました。
しかし増え続ける法則や数式、記号について疑問を抱いている人々も存在していました。
物理法則は無数に存在しますが、自然は1つです。
つまり無数の物理法則は、自然という1匹の巨大なゾウをさまざまな角度から描いたに過ぎない可能性があったのです。
そこで今回、オックスフォード大学の研究者たちは「メタ的な」視点を採用し、異なる法則について記述されている数式を分析し、背後に潜んでいる「ゾウ」あるいは「裏ルール」が存在するかを確かめることにしました。