意外と身近?ミュージシャンズジストニアの正体
ジストニアというのは、筋肉が異常に収縮し、自分の意思とは関係なく体がねじれたり、特定の姿勢が続いたりする神経系の運動障害を指します。
そして「ミュージシャンズジストニア」は、楽器を演奏するときだけ指が勝手に硬直するなど、力の制御ができなくなる運動障害です。
プロの音楽家において約1%の発症率が推定されます。
一見すると少ない数字に思えるかもしれません。
しかし、オーケストラや音大出身者など音楽家の裾野を考えると、この1%は決して無視できない確率です。
特にキャリアを本格化させた後に症状が出る人も多く、演奏家にとって深刻な問題です。
実際、日本人アーティストでも同様の症状を抱えたケースが報じられることがあります。
RADWIMPSの山口智史さんは、ジストニアによる不調で演奏活動を長らく休止しています。
また、コブクロの小渕健太郎さんは、首周りの筋肉が硬直し、声が出しづらくなる発声時頸部ジストニアで、活動を休止していた経験もあります。
しかし、なぜミュージシャンにこのような問題が起きるのでしょうか?
こうした「演奏動作の突発的な乱れ」を別の視点で見ると、スポーツ界でしばしば話題になる「イップス」を思い浮かべるかもしれません。
イップスはプロのスポーツ選手でも報告される繊細な動作がプレイ中にできなくなるという問題で、野球選手の投球や、ゴルフ選手のパットが上手くできなくなるなどが有名です。
しかしミュージシャンズジストニアは、イップスは類似点があるものの厳密には異なる症状だと考えられています。
イップスは「音楽家のジストニアと同様に、局所性ジストニアの一種」と捉える見方も存在していますが、基本的には「不安などの精神的要因が大きく関わる」とする見方が主流です。
イップスはメンタルの影響が強い現象であり、ミュージシャンズジストニアは脳の運動制御ネットワークの誤作動という神経系の問題なのです。
もちろんイップスと同様、精神的ストレスも発症や悪化を招く要因となり得ますが、「身体的酷使による局所性運動障害」という色合いがより強い点が特徴といえます。
そしてこの症状は、プロミュージシャンだけでなく、アマチュアや趣味で演奏を続ける方にも起こる可能性があります。
「ある曲だけ指がうまく動かない」、「速いテンポになると手が固まる」など、最初はささいな違和感から始まり、気づくと演奏自体が困難になるケースもあります。
ではこうした問題は、具体的に何を原因にして発生するのでしょうか?