マウスにヒトDNAを組み込むと異常に巨大な脳が成長
マウスにヒトDNAを組み込むと異常に巨大な脳が成長 / Credit:Nature
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マウスにヒトDNAを組み込むと異常に巨大な脳が成長

2025.05.19 21:00:55 Monday

アメリカのデューク大学(Duke)で行われた研究によって、ヒトとチンパンジーのあいだにわずか4文字しか違わないヒト特有のDNA配列をマウスに移植しただけで脳が平均6.5%も大型化し、さらに神経回路の働き方まで変わることが明らかになりました。

このヒト特異的DNA断片は塩基「4文字」の違いでヒトでだけ進化した領域であり、そのごく小さな差異が脳の大きさだけでなく神経回路ネットワークの特性にまで影響を及ぼしていたのです。

近年の研究で人類の脳を飛躍的に進化させた「知恵の実遺伝子」が複数あることがわかってきましたが、あらたな知恵の実遺伝子はたった4文字の違いに由来していました。

しかしたった4つの塩基がどのようにして幹細胞の増殖スケジュールを組み替え、複雑な脳ネットワークを生み出すのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月14日に『Nature』にて発表されました。

A human-specific enhancer fine-tunes radial glia potency and corticogenesis https://doi.org/10.1101/2024.04.10.588953

人類だけが“大脳3倍”になった理由を追え!

人類だけが“大脳3倍”になった理由を追え!
人類だけが“大脳3倍”になった理由を追え! / Credit:Canva

ヒトの脳は霊長類の中でも際立って大きく、とくにチンパンジーとの共通祖先から分かれて以降、その大きさは約3倍にも拡大しました。

なぜ人間だけがこれほどまで脳を大型化できたのか、その進化のメカニズムは長らく謎のままでした。

ヒトと他の霊長類のゲノムを比較すると、タンパク質をコードする領域にはほとんど違いがない一方で、非コード領域には人類で特有に変化した部分が数多く存在します。

特にヒト加速進化領域(HAR)と呼ばれる短いDNA断片は、ヒトとチンパンジーの分岐後に急速に塩基配列が変化した部位で、これまでに約3000カ所が知られています。

HARの多くは発生を制御するスイッチ(エンハンサー)として働き、脳の発達に関連する遺伝子の近傍に位置することが報告されています。

このためHARの変化が人間の脳を進化させた手がかりではないかと期待されています。

(※これまでにもヒト固有の遺伝子をサルなどの動物に組み込むことで脳を巨大化できることが示されてきました。)

ヒトの脳を進化させた「知恵の実」遺伝子が、サルの脳を巨大化させると判明

今回注目されたのは、ヒト加速進化領域(HAR)の一つであるHARE5というDNA領域です。

HARE5は染色体10上にある619塩基対の配列で、その中の4カ所がヒトでのみ変異していることが知られています。

HARE5は脳の発生に重要なWntシグナル経路の受容体FZD8遺伝子のエンハンサーとして機能し、マウス胚で神経細胞の産生を促進することが以前の研究で示唆されていました。

しかしヒト型HARE5が具体的にどのように脳の成長に影響するかはまだ分かっていません。

そこで本研究では、ゲノム編集技術を用いてマウスのHARE5領域をヒト型配列に置き換え、その効果を詳しく調べました。

次ページ4文字の置き換えでマウス脳が巨大化

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