物忘れの原因は「お腹」かもしれない

「あれ、昨日の晩ご飯は何だったっけ?」と考え込む――誰しも歳をとればこんな物忘れが増えるものだ、とよく言われます。
けれども現実には、周りを見渡せば80歳でも記憶力がしっかりしている人がいる一方で、60代から物忘れに悩む人もいます。
この違いはなぜ生まれるのでしょうか。
その理由を探るため、近年の研究では脳そのものだけでなく、腸の中に無数に存在する細菌(腸内細菌)の働きにも注目が集まっています。
腸は単に食べ物を消化する臓器ではなく、脳と情報をやり取りしています。
この腸と脳のつながりは「腸脳相関」と呼ばれています。
「頭」の悩み事が「胃腸の不調」として現れるのも腸と脳がつながっているからです。
また過去に行われた研究では腸内細菌叢(腸にすむ細菌の集まり)が学習や記憶に影響を及ぼすことを示す研究も報告されています。
さらにアルツハイマー病など認知機能が低下した人では、腸内細菌の種類やバランスが健康な人とは異なることが報告されています。
ただし、ここには大きな問題がありました。
それは「腸内細菌の違いが原因なのか、それとも結果なのか」という点です。
つまり、記憶力が落ちたから腸内細菌が変わったのか、それとも腸内細菌の変化が先に起きて脳に影響したのか、はっきり分からなかったのです。
そうした中、スタンフォード大学の研究チームは、この疑問に答えるため、まず若いマウスと老いたマウスを一緒に飼育し、自然に腸内細菌を共有させました。
また別により直接的な方法として、高齢マウスから採取した腸内細菌を若いマウスに移植してみたりしたのです。
つまり、「体は若いのに、腸内細菌だけは老けている状態」を人工的に作り出して、記憶力のテストを行いました。
すると驚いたことに、腸内細菌が高齢マウスに近づいた若いマウスは、見慣れた物と新しい物を見分けるテストや、迷路の位置を覚えるテストの成績が明らかに落ちたのです。
しかも、若いマウス同士を一緒に飼っただけでは同じ低下は起きず、単なる同居ストレスでは説明しにくい結果でした。
さらに新しい物体を以前ほど優先して見なくなりました。
この結果は、年齢とともに変化する腸内細菌が、マウスでは記憶力低下の原因の一つになっていることを支持したと言えます。
つまり、「腸内細菌は脳の老化の単なる結果」ではなく、「マウスでは脳の記憶力低下の原因の一つになり得る」と確認されたわけです。
しかしなぜなのでしょうか?
老いたマウスの腸内細菌はいったいどんな仕組みで若いマウスの脳機能を低下させていたのでしょうか?




























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