「作者」と「読者」という関係が溶けている

これまで物語は常に人類の頭の中から紙の上に書き連ねられるものでした。
しかしAIの登場で「書く」ということが人間以外でもそれなり以上にできることがわかってしまいました。
それでもこれまでの「AIと文学」をめぐる議論はプロの作家周辺の話でした。たとえば
有名な小説家が、AIに文章の一部を書かせて作品に混ぜていた。
あるいは、電子書籍で本を量産する書き手たちが、執筆を速めて一冊でも多く売るためにAIを使っている。
そうした話が報じられるたびに、論争が繰り返されてきました。
つまり議論の焦点は、いつも”送り手”の側にあったわけです。「作家がAIを使うのは、ずるいのか。創作と呼べるのか」──と。
ところが、今回ご紹介する研究は、その視点をくるりとひっくり返します。
問いかけるのは「読者だって、AIで物語を書いて、自分で読んでいるのではないか?」というものです。
言われてみれば、たしかにそうかもしれません。
でも、その実態を、公開されたデータから大きな規模で確かめる機会は、これまで限られていました。
というのも、AI企業の外から、個人がAIと交わした私的な会話を大規模に追う手立てが、ほとんどなかったからです。
ですが今回の研究は、その手立てを手に入れました。
そして、はっきりと「はい、読者も物語を書いています」と答えたのです。
これは物語の紡ぎ手が「作者」から「読者」へ、拡散しつつある可能性を示しています。
では、研究者たちは、その手立て――つまり個人が作った大量の物語を、どうやって手に入れたのでしょうか。
私たちが日々AIとどんな会話をしているか、その詳しいデータは、ふだんはOpenAIのようなAI企業だけが握っています。
金庫のなかに大切にしまわれていて、外の研究者が手を触れることは、まずできません。個人的なチャットの中身を勝手に覗いたら、当然アウトのはずです。
ところが今回、そのカーテンの隙間から中を覗ける、めずらしいデータがありました。「WildChat(ワイルドチャット)」と呼ばれるものです。
これは、無料で使えるおしゃべりAIを通じて集められた会話の記録です。
ただ1つ大きな特徴があり、利用者には「この会話は研究のために公開されるかもしれません」と二度にわたって念を押され、それに同意するという点です。
研究チームは、この記録のうち英語の会話、およそ57万3000千件を分析の対象にしました。
そうして見えてきた数字は、少し意外なものでした。
会話のおよそ3件に1件──全体の34%が、なんらかの「物語づくり」に使われていたのです。
オリジナルの小説、脚本、キャラクターになりきるロールプレイ、そして既存の作品を題材にした二次創作などです。
人々はAIに、仕事や調べものだけをさせているわけではなく、かなりの割合で、AIとの会話のなかで、自分の求める物語を作っていたように見えます。
また分析によって物語の27%が性的に露骨な内容を含むものであることもわかりました。
そして会話全体で見たときには、性的に露骨な内容は10%にのぼりました。
この数値はかなり高いと言えるでしょう。
ただ、驚天動地とは言えないかもしれません。
というのも、二次創作や性的な創作は、ネット上でもともと広く親しまれてきたジャンルだからです。
新しい技術と「この手の創作」は、昔から相性がいいとも言われてきました。
だとすればばAIの上でそれが再現されても、不思議はないのでしょう。
実際、本当に驚くべきは、その先にありました。



























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