粘菌がゴッホの絵のような不思議な構造をとると判明!
いくつかの粘菌には、驚くべき社会性が知られています。
粘菌は、遺伝的には植物よりも動物に近い存在であり、自分を認識するだけでなく、自分に近い家系も認識し、家系内部で協力して狩りを行う一方で、家系間での組織だった殺し合いも起こします。
また栄養が豊富にあるときには粘菌たちは単細胞状態でバラバラに存在しますが、栄養が不足したりストレスをうけたりすると、遺伝的に近いもの同士がより集まって、キノコのような多細胞体を形成し、胞子を飛ばす姿へと変化することが知られています。
今回の研究で発見された、ゴッホの絵のような不思議な構造も、粘菌たちが単細胞から多細胞に変化する過程で発生したものになります。
発見のキッカケになったのは、ライス大学の研究者が行った粘菌の家系認識を行う遺伝子の操作でした。
遺伝的に粘菌は植物よりも動物に近い存在であり、自分を認識するだけでなく、自分に近い家系も認識し、家系内部での協力する一方で、家系間での殺し合いも起こします。
動物にみられる社会性の基礎は、粘菌たちにもみられるのです。
そこでライス大学の研究者たちは、粘菌「M.ザンサス」たちの家系を認識するために使われる識別タンパク質(TraAとTraB)を過剰に分泌するような遺伝子操作を行いました。
家系認識が過剰になることで、粘菌たちの社会性にどのような影響が出るかを調べようとしたのです。
しかし、予想外の結果が現れます。
識別タンパク質が過剰に分泌されるようになった粘菌「M.ザンサス」たちは数時間以内に、グルグル巻きの円形に集まり始めました。
家系の認識にかかわるタンパク質が、いったいどうしてこのよな奇妙な構造を作らせたのでしょうか?
謎を解くために研究者たちはシミュレーションによって細胞の動きを予測し、その後の実験で予測が正しいかを実証することにしました。
まず先行して行われたシミュレーションでは、円形の渦巻構造を作るには、粘菌たちの動きが統制されていなければならないことが示されました。
通常の粘菌は終点の間を行き来する電車のように、前後が数分ごとに入れ替わる、反転性のある動きをします。
一方でシミュレーションでは、円形構造をとるには、粘菌から反転性がなくなり、一方向に向けた持続的な運動が必要であることが示されました。
そこで研究者たちは実際に、円形構造を作りつつある粘菌たちを観察してみました。
すると現実の細菌たちも、円形構造の内部では常に一方向に向けて回転運動していることが確認されます。
しかしより興味深い変化は、同種の異なる家系(戦争の相手になり得る)の両方をまぜて、共に家系認識にかかわるタンパク質を過剰分泌させたときにみられました。
シミュレーションでの予測どおり、2つの家系は年輪の層ごとにまとまって単一の方向に回りはじめ、上の図に示すように有名なゴッホの絵画のような円模様を作ったのです。
さらに追加の実験で、統制された単一方向への運動を阻害する化学物質を加えたところ、円形の構造物が崩壊したことが判明しました。
この結果は、ゴッホの絵のような構造ができた背景には、粘菌の家系を認識するタンパク質が過剰分泌されることで、逆に家系の違いを乗り越えた、統制された動きを引き出していることを示します。
ですがまだ円形構造ができる原因は不明のままです。
そこで研究者たちは実験データをまとめて1つの推論にまとめました。