太陽が昇る方向に向いていた
前方後円墳は日本に広く分布しており、その数は少なくとも4800基、最大で5200基に達すると言われています。
中でも大阪にある大山古墳(だいせんこふん)は、墳墓の全長が486m、高さ35.8mと、地球上で最も巨大な墳墓の一つです。
第16代天皇である仁徳(にんとく)天皇のものとされており、2019年にはユネスコ世界遺産にも登録されました。
その数の多さに反して、前方後円墳について書かれた記録や資料はほとんどなく、その起源や詳細を明らかにすることが非常に難しくなっています。
また、大きな古墳群は、伝統的な墓であるため、周囲への立ち入りが禁止されていて、発掘調査もままなりません。
さらに、古墳の多くでは、外縁部がフェンスで厳重に囲まれており、敷地の外周にすら入ることができません。
そのため、古墳のサイズや高さ、向きなどを正確に計測することができないのです。
日本の古墳に興味を持つ海外の研究者も、なかなか立ち入った調査は許可してもらえません。
それならばとミラノ工科大の研究チームは、リモートセンシング調査の強力なツールである高解像度の衛星画像を使用することにしました。
「陸がダメなら空から」という作戦です。
チームは、日本にある100基以上の前方後円墳を対象に、上空から見た衛星画像を分析して、古墳と周囲の土地、空との位置関係を調査しました。
その結果、前方後円墳の多くは、太陽と月の登る方向に向いていることが判明したのです。
具体的には、古墳の入り口から始まる通路が、太陽が昇って沈んでいくライン(弧)と同じ方向になっていたのです。
こうすることで、一年中毎日、古墳の回廊に日が射し込むことになります。
このような向きに建てられた目的は、正確には定かでありません。
しかし、研究チームは「これは偶然ではなく、日本の皇室の伝統や、天照大神(あまてらすおおみかみ)の直系の子孫と考えられる天皇の神話的起源と一致している」と指摘します。
天照大神は、皇室の祖とされる神であり、太陽神および巫女の性格をあわせ持ちます。
また日本神話では、天照大神から数えて第5代目の子孫に、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)、すなわち初代天皇である神武天皇がいます。
古墳には天皇を埋葬する陵墓などもあることから、天照大神と結びつく太陽の動きを意識して、古墳の向きを設計したのかもしれません。