奈良県葛城市に位置する當麻寺の金剛力士のうち、阿形像頭部に営巣した二ホンミツバチ
奈良県葛城市に位置する當麻寺の金剛力士のうち、阿形像頭部に営巣した二ホンミツバチ / credit: 當麻寺 護念院
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二ホンミツバチが仏像に巣作り。殺生禁止で困った末に取られた策とは

2025.02.22 18:00:14 Saturday

奈良県葛城市に位置する當麻寺(たいまでら)。推古天皇20年(612年)創建とされる説もある古刹です。

実際には7世紀末頃に建立された当麻氏の氏寺と言われていますが、古いことに変わりはありません。この寺は仁王門に金剛力士立像が祀られています。

金剛力士とは仁王様とも呼ばれる仏教のガーディアン的な守り神の仏像阿形(あぎょう)吽形(うんぎょう)の二体でワンセット。「阿吽(あうん)の呼吸」という言葉の「阿吽」です。

仁王像のうち、事もあろうに吽形像の頭内部に二ホンミツバチが住み着いたため、ちょっとした騒ぎになりました。

二ホンミツバチは絶滅危惧種として知られる日本固有のミツバチです。

自然保護の観点だけでなく、お寺では殺生になるため駆除できず、結果的に見守り続けて年月が過ぎていき、阿形像は自分に営巣した二ホンミツバチのガーディアンにもなっていました。

まさか、仁王像を壊してハチミツをとろうという罰当たりな人はいなかったからです。

二ホンミツバチが阿形像に守られているその間、参拝客が刺されないかの心配や像の汚損もあって2021年5月26日、決心した當麻寺と當麻寺のある自治体、葛城市はついに動きました。

仁王像を修復するという名目のもと、ハチは駆除ではなく引っ越しをさせて巣は取り除き、ハチの巣作りで汚損した吽形像を修復することにしたのです。

しかし、ハチはいったいなぜ、よりによって仏像の内部に巣作りをしたのでしょう。

まずは二ホンミツバチを呼び込んでしまった木彫仏像を、その構造から読み解いてみましょう。

仏教彫像の制作と受容 https://amzn.to/4k53EG8
葛城市 當麻寺仁王像修理事業について https://www.city.katsuragi.nara.jp/soshiki/rekishihakubutsukan/4/6/7379.html

天平時代、仏像は国家事業として制作された

日本において、奈良時代の天平年間は仏教が他国から入ってきただけでなく、仏教建築、仏教美術が根付いた時代でした。

天平時代とは奈良遷都の710年から長岡京へ遷都されるまでの749年までを差します。

当時の寺院建築について、伽藍(がらん)配置という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは建物の配置の様式を現す言葉で、いくつかの種類がありますが、メインとなるのは本尊を安置した金堂と仏舎利を収めた塔です。

天平時代以前は塔が礼拝の対象でした。塔には仏舎利が収められていることもあり、崇拝の対象だったからです。

法隆寺の伽藍配置。ひとつの金堂に対して塔がひとつのシンプルな構成
法隆寺の伽藍配置。ひとつの金堂に対して塔がひとつのシンプルな構成 / credit: Wikimedia Commons

それが天平時代には金堂がより重視されるようになりました。塔よりも、実際に目の前にある仏像が礼拝の対象となったためです。

仏教が国教とされ、仏教建築や仏像制作に関わる技能を持つ人は国家公務員として雇用されました。仏像の出来栄えは重要視され、仏師は仏像の表現により気を配るようになりました。

現存する国宝級の仏像は、それだけハイレベルな仏師が国家公務員として仏像を制作していたことも重要な要因です。

仏師たちは仏像のリアリティを追求するため、脱活乾漆(だっかつかんしつ)の技法で仏像を多く作るようになります。

これは細部をデリケートに表現するため粘土で作った原型に漆を染み込ませた麻布を貼り、漆が硬化したところで粘土は取り去って心木を入れて形を固定。その上に粉末にした木材を漆で練ったもので細部を表現し、最終的に漆で仕上げるという張り子のような技法です。

彫るのではなく形作っていくので、細部が気に入らなければやり直せるという利点もありました。脱活乾漆像では興福寺の阿修羅像が有名です。

奈良県に位置する興福寺の阿修羅像。現代ではイケメンと呼ばれて若い女性に人気
奈良県に位置する興福寺の阿修羅像。現代ではイケメンと呼ばれて若い女性に人気 / credit: Wikimedia Commons

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