膜がない羽毛状の翅で飛ぶ昆虫の飛行原理を解明!
私たちが目にする空を飛ぶ生き物のほどんどは、翼などの飛行機関に、空気を押したり受け止める膜を持っています。
鳥の場合は密集した羽毛が空気を押したり受けたりしますし、ハチやハエなどの昆虫は透けるほどの薄い膜状の翅を上下に羽ばたかせて飛ぶ力(揚力)を得ています。
しかし世界最小クラスの昆虫として知られる羽毛昆虫(学名:Paratuposa placentis)は違いました。
羽毛昆虫が空を飛ぶことは以前から知られていましたが、その翅が普通ではなかったのです。
彼らの翅は上の図のように、水でふやけて紙の部分が全部とれてしまった「骨だけのウチワ」のように、空気を押したり受け止めたりするための膜部分が存在しなかったのです。
骨だけになったウチワで仰いでも、空気の流れに影響を与えられず、全然涼しくならないのは誰もが想像できるでしょう。
同様に空気の流れに影響を与えられない羽毛状(骨だけ)の翅では、空を飛ぶことはできないハズでした。
しかし残念なことに羽毛昆虫の調査は進んでおらず、膜のない翅での飛行メカニズムは30年来、謎のままでした。
そこで今回、千葉大学と東京工業大学をはじめとした国際共同チームは、羽毛昆虫の飛行メカニズムの解明に挑みました。
研究者たちは電子顕微鏡を用いて翅の詳細な観測を行うと同時に、高速度カメラを用いて羽毛昆虫の飛ぶ様子を詳細に記録。
そして集められたデータを東京工業大学のスーパーコンピューターTUBAME3.0を用いて仮想世界でシミュレートしました。
結果、羽毛状の翅は、前後で拍手をするような独特の羽ばたきによって上下に空気の渦を作り出し、渦が空気を吸い込む力を利用して飛んでいることが判明しました。
羽毛状の翅は空気を直接的に押したり受け止めたりする代わりに、吸引力のある渦を生成して自分の体を引き上げさせるために存在していたのです。
また膜の部分を節約することで、同じサイズの膜状の翅に比べて翅全体の重量を10分の1~6分の1近くに削減することが可能になっています。
さらにカブトムシの硬い背中に該当する翅を守る鞘翅を器用に上下に動かすことで、激しい羽ばたき中でも体の安定を保っていることも示されました。