ウミガメに「噴火の予知能力」があった⁈
CTRCは遡ること3年前、浜辺の巣から出るのに失敗し、死ぬ寸前にあった孵化直後のアオウミガメ2匹を救助しました。
彼らはティリー(Tilly)とサミー(Sammy)と名付けられ、同センターで保護されることに。
ウミガメは少なくとも20歳になるまで性別は確認できないため、オスかメスかはわかっていません。
CTRCのジェニファー・ギルバート(Jennifer Gilbert)氏いわく、「このペアが生き残れるかどうかはしばらく微妙だった」そうですが、献身的な世話の甲斐もあって、2匹とも無事に成長しています。
救助されたウミガメは普通、体長45cmに達すると野生に戻されますが、今回はCOVID-19の影響もあり、ティリーとサミーは同センターの保護下に置かれたままでした。
2匹が3歳になった今年のタイミングで、CTRCの研究チームは、甲羅に追跡装置を取り付けて、移動ルートを記録する調査を開始しました。
というのも、ウミガメは幼年を浅瀬で過ごした後、大陸棚の方に向かい、5〜10歳になるまで海岸には近づきません。
この5年間は「失われた期間(Lost years)」と呼ばれ、そのときウミガメが何をしているのかよくわかっていないのです。
チームは、ティリーとサミーがその空白を埋めてくれると考えました。
オーストラリア沖で2匹を放った10日後、残念ながらサミーの追跡装置の信号が消え、居場所を見失ってしまいました。
原因は機器の故障か、サメとの不運な遭遇と見られます。
その一方で、ティリーは東方向へまっすぐ旅を続け、47日間で1867kmを移動しました。
チームは当初、エサも豊富なグレートバリアリーフの周りをうろつくと予想していましたが、何の迷いもなく数千kmも直進する行動にとても驚いた、といいます。
ところが1月15日になって、ティリーは唐突に180度向きを変えて、元来た方向に戻り始めたのです。
トンガの大噴火が起きたのはその直後でした。
わざわざ長い距離を移動したあとで、何の理由もなく引き返すなんてことがあるでしょうか。
ギルバート氏は次のように話します。
「確かに、ティリーが噴火を予知したと断定するのは、憶測にすぎません。しかし、ティリーは明らかに何らかの異変を感じ取っていました。
動物たちが、地震や津波の予兆を感じて、危険域から逃げ出す例はよく知られています。
ティリーも噴火前の振動を察知したのかもしれません」
それを支持するかのように、ティリーがグレートバリアリーフに戻ろうとしたとき、クイーンズランド州北部で小さな地震が発生しました。
被害を与えるほどの規模ではなかったものの、ティリーはまたその直前に進路を変えていたのです。
これまでの研究で、クジラやイルカ、アザラシ、そしてヤギにまで、地震の予知能力があることが知られています。
「同じ能力はウミガメでは知られていませんが、今回の観測論文を近々発表するつもりです」とギルバート氏は話しました。
ティリーは現在、73日間で約3000kmを踏破したあと、クイーンズランド沖を周遊しているとのことです。
ウミガメには、私たちの知らない能力がまだまだ隠されているのかもしれません。