全長2.3m、ギネス記録の「菌糸体カヌー」ができるまで
菌糸体(Mycelium)は、菌類のからだを構成する糸状の構造がより集まったもので、型を使って成長させれば、思い通りの形が作り出せます。
たとえば、アメリカのEcovative Design社は、菌糸体を使った持続可能なパッケージや建材を作っており、オランダのLoop社は、故人の遺体を納める生きた棺を開発しています。
菌類は、有害な汚染物質をすばやく分解してくれるため、とても環境にやさしいです。
今回の菌糸体カヌーを開発したのは、ワシントン州立大学(WSU・米)の元学生であるケイティー・エイヤーズ(Katy Ayers)氏。
氏は在学中に、菌類についてのドキュメンタリー映画「Super Fungi」(2013)を見て、自分でも菌糸体を作ってみたいと考えました。
そしてエイヤーズ氏は、Nebraska Mushroom(ネブラスカ・マッシュルーム) LLCのオーナーで菌類専門家のウィリアム・ゴードン(William Gordon)氏に「菌糸体カヌー」のアイデアを持ちかけたのです。
「ドキュメンタリーの中の菌類パッケージのセクションを見て、この素材を使って何かを作りたいと思いました。菌糸体に浮力があると聞いてから、ボートを作るアイデアが浮かんだのです」と、エイヤーズ氏は話します。
ゴードン氏もこのプロジェクトに快諾し、2019年5月、「MyConoe(マイコヌー)」と命名した菌糸体カヌーの製作に取りかかりました。
作業はおもに夜間と週末に行われ、計画から完成まで約半年を要しています。
その一方で、「菌糸体を型に充填してからは、完全に固まるまでにわずか7日しかかからなかった」とゴードン氏は話します。
作業の大部分は、カヌーの多様なパーツを並べるタイミングに費やされたとのことです。
こうして菌糸体を材料にした約2.3mのカヌーが完成しました。
同年9月には、ギネスが「世界最大の菌糸体ボート(World’s Largest Fungal Mycelium Boat)」という新しいセクションを創設し、マイコヌーを世界記録に認定しています。
また、同プロジェクトはSNSで話題となり、菌糸体の有用性と認知度を広めることに貢献しました。
エイヤーズ氏は、この分野にさらなる注目が集まることに意欲的です。
「菌類は、プラスチックから発がん性、放射性物質まで、地球上で最も有害な汚染物質のいくつかを分解できます。
にもかかわらず、私たちは、有益な菌類のほんの一部しか特定できていません。
専門家の多くは、人類が生み出した数多の有害物質に対して、それを分解できる菌類が少なくとも1種類ずつ存在するだろう、と考えています」
エイヤーズ氏とゴードン氏は現在、新たなプロジェクトとして、「菌糸体でつくったハチの巣」の製作に取り組んでいます。
これは近年、減少傾向にあるハチを保護する目的があり、春〜夏にかけてハチの巣が役目を終えたら、自然に分解されて天然の肥料となるとのこと。
エイヤーズ氏は今、ミツバチのホテル作りに追われているそうですが、「アイデアでいっぱいのノートがまだ3冊以上ある」と話します。
今後も菌類を使った面白い、そして環境にやさしい道具が誕生するかもしれません。