冬眠中のツキノワグマの血清には人間の筋肉を増やす効果があると判明!
現在の地球上には冬眠する多くの動物が存在します。
冬眠のメカニズムには不明な点が数多くありますが、最も奇妙な点として、骨格筋量の維持があげられます。
人間の場合、ベッドの上で生活するなどして骨格筋を使わないでいると、骨格筋を構成するタンパク質が1日あたり平均して0.5%~1%の速度で失われていきます。
しかし冬眠中のクマは4カ月~7カ月にもわたり「絶食したまま動かない」状態にありながら、冬眠の前後で筋肉量がほとんど変化しません。
またクマ同様に冬眠することが知られているリスでは、筋肉量の変化は全くみられないことが知られています。
同様の絶食と不活動に対する筋肉量の維持は、他の冬眠を行う動物にも、広く観察されています。
また後述するように、人間においても冬眠していたとしか思えない事例がいくつか報告されています。
このことは、冬眠が特定の種の持つ固有の生命現象ではなく、冬眠状態を作り出す何らかの共有システムが幅広い種に存在している可能性を暗示します。
しかし冬眠のメカニズムはほとんど解明されておらず、特に人間にかんしては基礎的な実験データが不足していました。
そこで今回、広島大学と北海道大学の研究者たちは、冬眠中のツキノワグマから抽出した血清を培養されたヒト筋肉細胞にふりかけて、何が起こるかを確かめることにしました。
結果、冬眠中のクマ血清がヒト筋肉細胞の総タンパク質量を増加させることが判明しました。
またタンパク質量増加が起きた要因を調べると、筋タンパク質の分解が抑制されていることが判明します。
筋肉では、新しい筋タンパク質の合成と既存の筋タンパク質の分解が同時に行われており、合成と分解の速度が等しいときに、筋肉量を維持することが可能になります。
冬眠中のクマ血清は、筋タンパクの分解を抑制することでこのバランスを合成優位に変化させる効果があり、結果としてタンパク質の総量の増加が起きたと考えられます。