ドライアイ防止につながる酵素を特定
意外かもしれませんが、涙には多くの油分が含まれています。
涙が水分を含んでいるのは間違いありませんが、目の上に張られている涙の最上部は水分の蒸発を防ぐ油分(脂質)で覆われています。
そのためドライアイは水分そのものの不足だけでなく、油分の不足によっても起こるのです。
実際、市販されているドライアイ専用の目薬には涙の水分部分を補うだけでなく「ごま油」など油分を補う脂質成分が含まれています。
涙に含まれる油分は多数に及びますが、多くは内部に「長いアルコール分子」を持っています。
といっても「お酒」とは関係ありません。
少しややこしいのですが、化学では一般に酸素と水素のくっついた「OH基」を含む分子のことを総じてアルコールと呼称します。
また脂質は一般に炭素がいくつも連なった長い分子ですが、その中にこの「OH基」が含まれている場合「長いアルコール」と表現するのです。
化学が苦手な人は、これは単に「特殊な油分」と思ってもらってかまいません。
重用なのは、涙の蒸発を防ぐにはこの「特殊な油分(長いアルコール)」が重要だということです。
水の上に油の層があると水分の蒸発を防いでくれるように、涙に含まれるこの「特殊な油分」も、涙の蒸発を防いでドライアイにならないようにしてくれています。
つまり「特殊な油分」はドライアイ防止のキーとなっているとも言えるでしょう。
しかし現在に至るまで、この「特殊な油分」がいったいどんな仕組みで作られているか不明でした。
仕組みが不明ならば、ドライアイを根治させる薬を作ることは叶いません。
そこで北海道大学の研究者たちは以前から、この「特殊な油分」の合成に必要な酵素の存在を探索していました。
そして今回ついに「Far2」と呼ばれる酵素が「特殊な油分」の合成に決定的な役割を果たしていることを突き止めたのです。
この結果を踏まえ、遺伝子操作を行って「Far2」を生産する遺伝子が欠損している変異マウスを作成したところ、変異マウスは目を閉じている時間が異常に長く、開いているときも、まばたき頻繁が高くなっていました。
さらに角膜を調べたところ、涙の不足から傷も多くついていることも判明します。
これらの症状は、マウスが重篤なドライアイを発症していることを示します。
さらに、またまぶたの裏にある油分の分泌が行われる「マイボーム腺」を調べたところ、変異マウスは白い歯磨き粉のような塊でびっしり覆われており、油分の正常な分泌が著しく損なわれていました。
さらにドライアイマウスの「マイボーム腺」から取り出した油分を調べてみると、溶けるのに49℃もの熱を必要とすることが判明します。
通常のマウスの涙に含まれる油分は体温で溶けるために常に液状ですが、ドライアイマウスの涙に含まれる油分は常に個体・半液体として存在していたのです。
この結果は「Far2」が作る「特殊な油分(長いアルコール)」が、涙に含まれる他の油分の調整と液化にも重要な働きをしていることを示します。
研究者たちは、涙の油分形成の仕組みを標的にした新薬を開発することで、将来的にドライアイの根治につながる新薬を開発できると考えています。