大豆イソフラボンは「女性ホルモン」と同じ作用を持つ
今回の研究で用いたのは、東ヨーロッパ〜ロシア海域に広く分布する小型の「コチョウザメ(Acipenser ruthenus)」です。
本種はチョウザメ科の中で最も成長が早く、メスの体重が1キロに達する3才ころには、キャビアとなる卵を持つようになります。
コチョウザメ自体が小柄なため、キャビアも小粒ですが、「スターレット(STERLET)」という最高級品種として重宝されています。
美食家いわく、独特なナッツ風味が特徴的だという。
一方で、チョウザメは、オスとメスが1:1の割合でしか生まれないため、養殖におけるキャビアの生産効率が低いことで知られます。
そこで研究チームは、メスを多く得るための技術開発を目指して、2021年5月から、大豆イソフラボンを用いたメス化実験を行ってきました。
大豆イソフラボンは、生物の体内で女性ホルモンと同様の作用を持つことで有名です。
実はチームはすでに、同様の実験をナマズで成功させています。
ナマズ養殖では、オスとメスに成長スピードの違いがあり、そのせいで生産効率が低下するという悩みが以前から指摘されていました。
しかし、2020年9月以来の実験で、ナマズの稚魚の全メス化に成功しています。
今回は、孵化後2カ月のコチョウザメの稚魚を5グループに分け、グループ1〜3には、大豆イソフラボンの一種である「ゲニステイン」を含む飼料を180日間与え続けました。
その際、ゲニステイン含有量は、グループ1で10µg/g、グループ2で100µg/g、グループ3で1000µg/gに設定しています。
※µg/g(マイクログラム・パーグラム、1μgは100万分の1g)
そして、グループ4には女性ホルモン(10µg/g)を含んだ飼料を、グループ5には、いずれも含まない普通の飼料を与えました。
また、グループ1〜4は180日間の期間が終わると、普通の飼料に戻して70日間飼育し、グループ5は普通の飼料を250日間継続して与えます。
実験期間の終了後、1グループあたり8尾前後を解剖して生殖腺を調べ、同時に、体表粘液テストによって各個体の遺伝的な「性別」を特定しました。
その結果、卵巣を持つ個体の割合は、グループ3で、8尾中8尾(100%)でした。
また、遺伝的にはオスだが卵巣を持つ個体の割合は、同じグループ3でのみ、5尾中5尾(100%)となっています。
これは、ゲニステイン含有量を1000µg/gに設定することで、コチョウザメが全メス化することを意味します。
大豆イソフラボンを経口投与して、チョウザメの全メス化に成功したのは日本で初めてです。
本研究の成果により、チョウザメ養殖におけるメスの割合を増やすことで、キャビア生産効率の向上が期待できます。
これまで手の届かなかった高級食材が、家庭の食卓に仲間入りする日は近いかもしれません。