子どもはソーシャルメディアへの感受性に性差が生じる?
本研究は、イギリスにおける10〜80歳までの約8万4000人からなるデータセットを用いました。
この中には、今回の調査対象となる10〜21歳の若者、約1万7400人の縦断的データ(一定期間にわたって個人を追跡したデータ)が含まれています。
各参加者には、2011〜2018年にかけて毎年1回、ソーシャルメディアの利用状況と、自己申告による生活満足度を調べるアンケートに回答してもらいました。
ソーシャルメディアの利用頻度については「学期中の平日に、インターネット上のSNSやメッセージングサイト、アプリに何時間費やしていますか?」と質問しています。
これらのデータを分析した結果、ソーシャルメディア利用が12カ月後の生活満足度を低下させやすい時期が男女ごとに特定されました。
それによると、女子は11~13歳、男子は14~15歳でした。
こうしたソーシャルメディアに対する感受性の性差は、女子と男子で思春期の訪れる時期が違うことに起因すると考えられます。
また、生活満足度が平均より低い10代の若者は、12カ月後にソーシャルメディアの利用頻度が増加していました。
その一方で、19歳時点でのソーシャルメディア利用は、男女ともに、再び生活満足度の低下を引き起こしています。
これは、19歳という年齢が、実家を出たり仕事を始める社会的変化の時期にあたり、それゆえに、心が脆弱になったり、ソーシャルメディアへの感受性が高まっている可能性があります。
集団でなく「個人レベル」での危険な時期を探るために…
この結果について、ケンブリッジ大学のエイミー・オーベン(Amy Orben)氏は「ソーシャルメディアの利用と心の健康のつながりは、非常に複雑である」と指摘。
「私たち全員が心配すべき特定の年齢層があるとは言えませんが、それでも、脳の発達や思春期にともなう体の変化、また環境の変化が、心を脆弱にしやすくなる時期があるようです」
また、オックスフォード・インターネット研究所のアンドリュー・プリジビルスキー(Andrew Przybylski)氏は「現在、若者がソーシャルメディアに費やす時間は、専門家や保護者にとって”ブラックボックス”になっている」と話します。
「その理解を深めるには、より豊富なデータが必要です。
ソーシャルメディアが良いとか悪いとかではなく、若者が何をしているのか、なぜそれを使うのか、それについてどう感じているのかについて、理解しなければなりません」
他方で研究チームは、今回の成果が、「ソーシャルメディア」と「生活満足度」の間に関連性があることを集団レベルで示しているものの、どの個人が最も危険であるかを予測することはできない、と強く主張しています。
プリジビルスキー氏は、これに関して「ソーシャルメディア企業やその他のオンラインプラットフォームと協力し、データを共有するための土台を築いていかなければならない」
「もし企業側が応じないなら、政府がこれらの企業にもっとオープンにすることを強制する法律を導入して、オンライン被害の防止により真剣に取り組んでいきたい」と述べています。
ソーシャルメディアやリモート通話の普及で、コミュニケーションが「見えづらく」なっている今こそ、人と人のつながりに目を向けるべきかもしれません。