多発性硬化症は「ウイルス感染」が原因だった
今年の1月になって発表された2つの研究によって、エプスタインバーウイルス(EBウイルス)によるウイルス感染が根本に存在することが示されました。
最初の研究では、約1000万人のアメリカ軍人(退役者含む)が調査されており、多発性硬化症を起こした患者のほぼ全てでEBウイルスの感染が先行していました。
また、ウイルス感染が起きた場合には、多発性硬化症の発生リスクが32倍に増加することも判明しています。
2番目の研究では、このウイルスが生産するタンパク質が、人間の中枢神経で生産されるタンパク質と極めて似ていることが示され、免疫がウイルスの体の一部と勘違いして脳を攻撃する可能性が示唆されました。
つまり体の免疫は、ウイルスを攻撃しているつもりでも、実際には人間の神経を攻撃してしまい、結果として多発性硬化症を引き起こしていたのです。
そこでAtara Biotherapeutics社の研究者たちは、多発性硬化症の引き金となるEBウイルスを駆除することができれば症状が改善すると考え、患者が参加する臨床試験を行うことにしました。
試験ではまず、EBウイルスに感染したことがある非進行性の患者から免疫細胞(T細胞)が抽出されました。
次に、抽出した免疫細胞(T細胞)に対して、拒否反応を起こさないように改造を行い、進行性の24人の患者の体内に注ぎ込みました。
移植された免疫細胞(T細胞)には、EBウイルスに感染した他の免疫細胞(B細胞)を破壊する能力があるため、ウイルスの駆除が進むと考えたからです。
【※EBウイルスは、免疫細胞の1種であるB細胞(抗体の生産工場)に感染することが知られています】
結果、20人(83%)の患者において、進行性の症状が安定したり改善する様子が確認できました。
また、症状が安定あるいは改善した患者の神経を調べたところ、外側の絶縁体部分(ミエリン)の密度が大きく回復していることが判明しました。
【※ミエリンの密度を示す磁化移動比(MTR)が大幅に増加していました】
さらに、神経症状の尺度として利用されているテスト(EDSS)においても好成績を収めるようになり、多発性硬化症が細胞レベルでも症状の重さにおいても、大きく回復している様子が示されました。