がん細胞に対して「望まぬ変異」を強制する
がん細胞に変異を与える手法も、基本は、がん細胞のDNAをズタズタにすることを目指しています。
がん細胞に対して外部から「望まぬ変異」を強制することで、ステルス化したがん細胞に余計なタンパク質を作らせ、自分のステルス能力を台無しにさせるという戦略です。
この戦略をもとに、がんになったマウスに対して、がん細胞のDNA修復を阻害し変異を誘発する薬剤を与えたところ、がん細胞にエラーが蓄積してステルスが解除され、免疫療法がうまく機能することが示されました。
(※がん細胞は変異を武器に生存能力を高めていますが、免疫から隠れ続けるにはステルス機能にかかわる遺伝子に変異を修復する能力が必要でした)
この結果は、がん細胞に効果的に変異を与え「バグらせる」ことができれば、免疫療法によって高められた攻撃が命中することを示します。
そこで今回、動物実験での成功を経た研究者たちは、人間に対する臨床試験を実施することにしました。
研究では、免疫療法が上手くいかなかった進行性結腸癌の患者に対して、がん細胞の変異を誘発する「テモゾロミド」を与えられました。
結果、治療グループ全体で腫瘍の成長が平均して7カ月間停止したことが判明します。
また研究者たちが行った最新の学会発表では、テモゾロミドを投与された16人中14人で、がん細胞の突然変異が誘発されていることが示されました。
さらに別の研究グループが行った研究では、テモゾロミドに加えて別の変異誘発剤シスプラチンを混ぜてマウスに注射してみたところ、それぞれを単独で投与した場合に比べて1000倍のフレームシフト変異が起きており、免疫療法によって腫瘍が消えている様子が示されました。
(※フレームシフト変異は塩基の欠損や挿入によって起こる変異であり、他の変異に比べて大きな影響が出る傾向があります)
また同様の混合処方を人間に行った場合でも、がん細胞で高レベルのフレームシフト変異が起こり、腫瘍の成長が止まっている様子が確認できました。
これらの結果は、変異誘発剤の投与によって、がん細胞のDNAにダメージが蓄積してステルス能力を維持でなくなり、免疫療法による退治が進んでいることを示します。
そうなると気になるのが、安全性です。