レーザー光の反射を測定して、地表の情報を割り出す
NASA主導のKNaCK(ナック)プロジェクトは、2020年に、米国の企業・Torch Technologies、およびAeva社と提携してスタートしました。
主な目的は、月面の南極付近(アルテミス計画の着陸予定地)での探索を支援する、リモートセンシング・マッピングシステムの開発です。
KNaCKは着用者が背負うバックパックの形をとり、リモートセンシング(物に触れずに調べる技術)には、携帯型の「LiDAR(ライダー)スキャナー」を用いています。
LiDARとは、「レーザー画像検出と測距(Laser Imaging Detection and Ranging)」の略称です。
対象物にレーザー光を照射し、それが跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向、位置、形状などを割り出します。
しかも、今回のKNaCKには、「周波数変調連続波レーダー(FMCW)」と呼ばれる革新的なタイプのLiDARを搭載しました。
FMCWでは、レーザー光が地面に当たって反射すると周波数が変化し、その変化した周波数がLiDARの検出器に戻ることで、照射した光との差を計測します。
その差で地表までの距離や方向、位置を導き出し、詳細な地形図が作成されます。
またFMCWは、1秒間に数百万点の測定点のドップラー速度測定を提供します。
ドップラー速度測定とは、レーダーに近づく風の成分と遠ざかる風の成分を測定するもので、これにより、地表に巻き上がる粉塵の方向や速度までもリアルタイムで検出できるのです。
そのテスト映像がこちらです。
このテストは、2021年11月に、米南西部ニューメキシコ州のキルボーン・ホールという火山地帯で行われました。
左上はドローンが降下したときの高解像度ビデオで、右上がLiDARスキャナーにより地形情報を検出したもの、そして下がFMCWにより粉塵の速度と方向を検出したものです。
赤色はスキャナーから遠ざかる粉塵を、青色はスキャナー側に近づく粉塵を表します。
こうした技術により、KNaCKは、徒歩での移動や探査ローバーの走行中に、地表や山、渓谷などの地形をこと細かにマッピングできます。
また、KNaCKは周囲の光による干渉を受けず、真っ暗闇でも使えるので、月面のどこへ行くにも面倒な照明器具を運ぶ必要がありません。
本プロジェクトを率いる惑星科学者のマイケル・ザネッティ(Michael Zanetti)氏は、次のように話します。
「KNaCKは、ナビゲーションとマッピングのための測量ツールであり、センチメートル単位の精度で超高解像度3Dマップを作成し、それに豊かな科学的背景を与えることができます 。
また、月のようにGPSが使えない環境では、宇宙飛行士や探査ローバーの安全確保にも役立つでしょう。
たとえば、私たちは普段、特定の建物や木立を目印にして自分の位置を確認しますが、月面にはそのような目印がありません。
その中で、KNaCKは、基地までの距離や方向、自分がどれくらい離れたかまで、常に把握することを可能にするのです」
基地までスムーズに戻ることは、宇宙飛行士のスーツの酸素供給量に制約があるため、非常に重要になります。
研究チームは現在、バックパックのプロトタイプの重さが約18キロあることを問題視し、軽量化を試みています。
また4月下旬には、再びニューメキシコ州キルボーン・ホールでの実地テストを行う予定とのこと。
これらをクリアした暁には、アルテミス計画の重要な探査道具として、宇宙飛行士とともに月面へと旅立つでしょう。