学名の由来は「冷たい風で凍死させる悪霊」
今から約6600万年前、直径10キロほどの巨大な隕石が、メキシコのユカタン半島付近に衝突し、恐竜時代に終わりを告げました。
上空は厚い塵に覆われ、地球規模で寒冷化が進み、陸海ともに多くの生物が絶滅したと言われています。
この大量絶滅については多くの考古学研究で着目されており、日本の国立科学博物館もこれに関する調査研究を実施してきました。
しかし、この大量絶滅は地球規模の出来事でありながら、北米以外の生態系の変化について、大部分が謎に包まれたままとなっています。
そんな中、共同研究のために来日していたアルゼンチン国立自然科学博物館の古生物学者、フェルナンド・ノヴァス(Fernando Novas)氏から、「隕石衝突前後の生態系を解明できそうな新しい化石産地がパタゴニアにある」との情報がもたらされました。
そこで国立科学博物館の研究チームは、2020年3月、ノヴァス氏らと共に現地で発掘調査を開始。
その結果、約7000万年前の白亜紀最末期にあたる「チョリロ地層」から、新種のメガラプトルの化石が発見されたのです。
縦3メートル、横5メートル、深さ1メートルの範囲から、椎骨・肋骨・腹肋骨・烏口骨(うこうこつ)など、多くの化石断片が回収されています。
メガラプトルは、約9000万年前の白亜紀の中後期に南米に生息した大型獣脚類です。
全長はかなり大きいものの、ティラノサウルスのような重さはなく、軽量で身軽だったとされています。
最大の特徴は、前腕にある三日月型の鋭いカギ爪で、最大35センチに達しました。
これまでの調査からカギ爪は、相手を刺すよりも、相手を切り裂く「斬撃」に秀でていたことがわかっています。
新種の化石を分析してみると、椎骨と左右の肋骨の組み合わせから、胴体の幅が約1.2 メートルに達することが判明。
また、メガラプトル類の中でも骨格標本の完全度が高いアエロステオンとアロサウルスの骨と比較した結果、新種の全長は9〜10メートル、体重は5トンに達すると推定されました。
既知のメガラプトル類の最大種が、全長7〜8メートルとされているため、新種は史上最大級のメガラプトルと考えられます。
そのため、攻撃力や獲物を狩る能力も、それまでのメガラプトルとはケタ違いだったでしょう。
これを踏まえ、研究チームは、新種の学名を「マイプ・マクロソラックス(Maip macrothorax)」と命名しています。
マイプ(Maip)は、パタゴニア地方の伝承に登場する「冷たい風で凍死させる悪霊」の名前で、マクロは「大きな」、ソラックスは「胴体」を意味します。
そして、もう一つ注目したい点は、本種がメガラプトル類の進化の最後に位置したことです。