オスの戦略は「先に抱きつき、後で了解を得る」
本研究では、1920年〜2020年の間に、南極大陸をのぞく全ての大陸(52カ国)で収集された、カエルの「誤ったアンプレクサス」に関するデータを調べました。
合計で69属156種、のべ378例の記録が見つかり、飛びついた相手から、それが発生した年月日まで特定されています。
その結果、うち282回は「他種の両生類」、46回は「生物の死骸」、50回は「非生物または非両生類」に対しアンプレクサスを行っていました。
このことから、間違った相手に飛びつく習性は、カエルの世界でかなり広く浸透していることがわかります。
とくに、アメリカとブラジルは「誤ったアンプレクサス」の温床となっており、最も多くの記録が確認されたそうです。
では、なぜカエルは、子孫も残せない相手に飛びついてしまうのでしょうか?
研究主任のフィリペ・セラーノ(Filipe Serrano)氏は「カエルは主に、音響と視覚を手がかりに交尾相手を探す」と指摘。
「しかし、それは種やグループによって違う」と続けます。
「たとえば、樹上生のカエルは縄張り意識が強く、オスもその場を動かずに、鳴き声を使って交尾相手のメスを呼び寄せます。
これに対し、地上生のカエルはメスを見つけるために、常に繁殖地を動きまわって探索を続けなければなりません」
たとえば、最初にお話しした南米コロンビアのカエルでは、メスが雨季の始まりの数日間だけ樹上から降りてくるので、出会いの確率がきわめて低いのです。(加えて、メスの数はオスの3分の1程度しかいない)
そのため、地上生のオスガエルは一度メスを見つけると、自分の好みは無視して、とにかく飛びつき交尾権を独占しなければなりません。
「誤ったアンプレクサス」が発生するのもこれが原因です。
セラーノ氏は、こう説明します。
「オスのカエルは繁殖の確率をあげるため、”先に抱きつき、後で了解を得る”という戦略を取ります。
つまり、メスに少しでも似ていると思えば、オスはアンプレックスを選択するのです。
もし下手に観察してメスを逃してしまうと、繁殖の機会を失い、子孫が残せなくなります」
またセラーノ氏は「オスは(同種のメスであることを確かめるために)化学的・触覚的なサインを使うこともありますが、それらはあまり重要でなく、最初はとにかく視覚と音に頼る」と話します。
ブーツの先に間違われるメスからすれば、こんな失礼な話はありませんが、遠目に丸みを帯びたものが動いていると、オスの目には交尾相手に映っているのかもしれません。
まとめ
研究チームは現在、誤ったアンプレクサスに「人間の影響(生息地の破壊、外来種の導入、温暖化)」が関与しているかどうか調査中とのこと。
というのも、こうした環境変化が災いして、メスと遭遇する機会が減り、その結果、間違った相手に飛びつく習性が増加していると考えられるからです。
セラーノ氏は「特にアジアやアフリカでのデータが不足しているため、市民科学者の協力を得たい」と話しています。
もし自分の靴先にカエルが飛び乗ってきたら、その画像をソーシャルメディア上に共有することで、研究者を助けられるかもしれません。