犬の散歩が、犯罪を予防する「抑止力」となる
本研究では、アメリカ北東部オハイオ州の中央に位置するコロンバス地域において、595の国勢調査細分区グループ(census block group)を対象に、2014年から2016年の犯罪統計を分析しました。
※ 国勢調査細分区グループ:米国勢調査局が、標本調査(一部の標本世帯のデータだけを集める調査)を行って統計を作成する際の最も小さな地理的単位のこと。
また、マーケティング会社が住民に犬を飼っているかどうかを質問した2013年のデータと、青少年の健康・発達を調べる「Adolescent Health and Development in Context」のデータを分析。
※ Adolescent Health and Development in Context:オハイオ州の11〜17歳の青少年について、心身の健康や教育適正化、危険な行動や被害など、心理社会的な健康・発達レベルを調査するもの
さらに研究チームは、コロンバスの住民に対し、「近隣住民は信頼できるか」「相互にどれほど信頼を持っているか」を評価してもらいました。
以上の調査から、「地域における犬の多さ」「犯罪率の高低」「住民相互の信頼度」の3点を比較検討します。
データ分析の結果、犬の密集度が高い地域では、密集度の低い地域に比べて、明確に犯罪発生率が少ないことが示されました。
具体的には、強盗の発生件数が約3分の2、殺人の発生件数が約半分であることが判明しています。
これについて、研究主任のニコロ・ピンチャック(Nicolo Pinchak)氏は「近隣に犬が多いことは、住民同士の信頼度の高低にかかわらず、犯罪件数の減少と関係していた」と指摘。
「おそらく、犬の吠え声や犬を見かけるだけでも、犯罪を思いとどまらせる力となるのでしょう」と説明します。
そしてここに、「住民相互の信頼度が高い」という第3の要因が加わると、さらに犯罪率は減少していました。
これは例えば、犬の散歩途中に他の住民と立ち話をすることで、周囲を監視する目になったり、近隣の近況について話し合う機会になったりします。
確かに犬の飼い主は、散歩の際、自らの飼い犬や相手の犬を通じてコミュニケーションを取る機会が多く、一人で散歩に出る場合より、地域の人と交流を図る機会は多くなるでしょう。
つまり、何気なくしている毎日の犬の散歩や井戸端会議が、自然と、町のパトロールや犯罪の抑止力になっていたのです。
この結果は、犯罪発生に関する様々な要素(近隣の若い男性の割合、住民の経済的な不安定さ、社会的地位など)を考慮しても、変わりませんでした。
このことから、犬の多さと住民同士の信頼度は、明らかにその街の犯罪を減らす効果を持っている、と結論できます。
加えて、近年の研究によると、犬を飼うことには、うつ病や不安症、ストレスの軽減にも役立つ結果が指摘されており、犯罪の予防以外にも多くのメリットがあります。
犬を飼う人が増えれば、街が平和になる上に、心身ともに健康な人も増える。
やはり、犬は人類にとって”最良のパートナー”と言えるでしょう。