獲物がいないシーズンは「犬のうんち」が頼り
今回の研究は、ハイランド地方にあるケアンゴームズ(Cairngorms)山脈に生息するアカギツネの食生活が、近隣住民やそのペットの訪問によってどのような影響を受けるかについて理解を改めるものです。
研究チームは当初、食性が似ている同地のアカギツネとマツテン(イタチ科テン属)が、いかに共存し、互いの狩りにどんな影響を与えているか、明らかにすることを目的に調査を行っていました。
しかし、調査を進める中で、まったく予想外の事実が浮かび上がったのです。
この調査では、両者の食べているものを正確に把握するべく、「メタバーコーディング(metabarcoding)」という手法を用いました。
これは環境中に散らばったさまざまなDNA(環境DNA)を解析することで、何の生物種が関連したかを判別するものです。
その結果、キツネの糞サンプル中に、家庭犬のDNAが2番目に多く含まれる(全体の約40%を占める)ことがわかったのです。
これはマツテンの糞サンプルには見られませんでした。
そして、その抽出されたDNAは犬の糞に含まれるものだったのです。
このことからアカギツネは、飼い主と散歩にきた犬が落としていった糞を日常的に食べていることが判明しました。
さらに、2018年と2019年の冬〜春にかけて、シーズンごとにキツネの糞サンプルを分析(アカギツネの繁殖期は、地域によって異なるが、だいたい12月〜4月の間に活発になる)。
その結果、検出される犬の糞DNAは、アカギツネの好物であるキタハタネズミの出現率が低いシーズンにおいて、有意に増加していたのです。
反対に、キタハタネズミのよく獲れる時期は、犬の糞DNAが少なくなっていました。
加えて、研究者によると、飼い犬の糞は、普段キツネが食べている獲物と同等のカロリー含有量を持っていることが示されたという。
つまり、アカギツネは、食糧不足のシーズンになると、犬の糞を重要な食料源として活用していると結論されます。
また、犬の糞であれば、狩りに要する労力もないため、空腹状態でも簡単に手に入るのでしょう。
研究主任のクリスチャン・ナヴァロ(Cristian Navarro)氏は「これほど多量の犬の糞ををキツネが消費していたという事実は、過去に前例のないこと」と指摘。
「犬やウサギが自分の糞を食べることはよく知られていますが、他の動物種の糞を食べるケースはほとんど記録がなく、これは、野生動物間の見過ごされていた(食性に関する)相互作用と言えるでしょう」と話します。
他方で、同チームのグザヴィエ・ランバン(Xavier Lambin)氏は「犬の糞を他の野生動物が食べることは、病気や寄生虫に感染したり、新しい病原体が持ち込まれる危険性もある」と指摘します。
これはいまだ不明な点であり、今後の研究課題となります。
しかし今のところ、ハイランド地方のアカギツネに異変はない模様。
アカギツネがどう思っているかはわかりませんが、他種族の糞に頼らなければならないほど飢えに苦しめられたくはないものです。