ダイヤモンドの類似石となった人造石
ダイヤモンドの類似石を人工的に作ろうという試みは18世紀から盛んになり、最初の頃はガラスや合成コランダムなどが素材として使われていました。
当初は、ダイヤモンドのような輝きを持つ宝石はなかなか現れませんでした。
しかしながら、研究者たちのたゆまぬ努力の結果、次々とダイヤモンドに引けを取らない美しい輝きを放つ宝石が誕生していきました。
ここでは、その一部をご紹介いたします。
チタニア
チタニアは正式名称を「合成ルチル」と呼ぶ宝石です。
ルチル(金紅石)は二酸化チタンの結晶で、天然のものは赤褐色や金色をしています。
針のように細いルチルがクォーツ(石英)の中に入った「ルチルクォーツ」は、金運を高めるお守りとしても人気が高いアイテムです。
二酸化チタンの結晶であるため「チタニア」という宝石名が付きました。
チタニアの特徴は、ダイヤモンドを超える屈折率の高さです。
ダイヤモンドの屈折率は2.42ですが、チタニアは2.8とダイヤモンドを上回り、ダイヤモンドの実に7倍以上のファイアを見せるといわれています。
チタニアはその美しい虹色から「レインボーダイヤモンド」と呼ばれることもありました。
しかし、そんなチタニアの天下も長くは続きません。
大きな理由の一つが、その柔らかさと脆さです。
チタニアのモース硬度は6と、宝石の中では柔らかい部類に入ります。
その柔らかさから、経年劣化による欠けやスレが発生してしまうため、トップクラスの傷つきにくさを誇るダイヤモンドの類似石としてはかなり苦しい立場に置かれてしまいました。
また、あまりにも派手なファイアのためにダイヤモンドとの見分けが簡単についてしまい「かえって偽物っぽい」と思われてしまった、という話もあります。
そのため、チタニアは次にご紹介する「チタン酸ストロンチウム」の登場により、市場からその姿を消していきました。
今ではチタニアは、一部コレクターの間でひっそりと取引される希少石となっています。
チタン酸ストロンチウム
チタン酸ストロンチウムとは、ストロンチウムとチタンの複合酸化物です。
天然の鉱物としては「タウソナイト(タウソン石)」と呼ばれます。
チタン酸ストロンチウムの特徴は、ダイヤモンドに近い輝き方です。
屈折率が2.409と、ダイヤモンドの2.42に近く、チタニアに比べるとより自然なファイアを放つ宝石です。
そのため、チタニアに続きダイヤモンド類似石の地位を獲得しました。
しかしながら、チタン酸ストロンチウムもチタニアと同じくモース硬度は6と柔らかいことから、経年劣化による欠けやスレが発生しやすいという弱点も抱えています。
なお、チタン酸ストロンチウムはダイヤモンド類似石の他にも、誘電率の高さと温度変化の小ささから、セラミックコンデンサの材料に使われるという工業的な一面も持っています。
YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)
YAGは、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物からなるガーネット構造の結晶です。
天然のガーネットのようにケイ酸を含んではおらず、天然にはない化学組成となっています。
YAGの特徴はモース硬度の高さと強い輝きです。
YAGのモース硬度は8.5とトパーズ(黄玉)を超える傷つきにくさを持ち、宝石の中では頑丈な部類に入ります。
また、ギラリとした強い輝きも持っていたこともあり、ダイヤモンド類似石として採用されていました。
しかしながら、屈折率は1.83とダイヤモンドには及ばず、ダイヤモンド特有の強いファイアまでは見られないことから、ダイヤモンド類似石としての地位は長くは続きませんでした。
現在では宝石としての生産は終了しており、チタニアと同様、アンティークジュエリーとしてコレクターの間で取引される宝石となりました。
また、YAGは宝石としてだけでなく「YAGレーザー」と呼ばれる固体レーザーの発振用触媒としても用いられています。
キュービックジルコニア
次にご紹介するのはキュービックジルコニアです。
宝石に詳しい方なら、一度は耳にしたことがある名前ではないでしょうか。
20世紀に誕生し、現在でもダイヤモンド類似石としてはトップクラスのシェアを誇っている宝石です。
ジルコニウムの酸化物であるキュービックジルコニアは、和名を「立方晶ジルコニア」と呼びます。
キュービックジルコニアの特徴は、ダイヤモンドに近いファイアと宝石の中では高いモース硬度です。
屈折率は2.2とダイヤモンドの2.42にはやや劣りますが、それでもダイヤモンドのような鮮やかなファイアを放ちます。
また、モース硬度は8.3と、こちらも宝石の中では丈夫な部類に入ります。
さらに1カラットあたりの価格が1ドル以下と非常に安価で、大きな結晶も作りやすく、添加物を加えることでさまざまな色合いに染められるという魅力もあります。
これらの好条件が揃うことで、キュービックジルコニアはダイヤモンド類似石の代表格としての地位を誇っているのです。
人造モアッサナイト
人造モアッサナイトは、炭化ケイ素で構成された結晶です。
今回ご紹介した人造ダイヤモンド類似石の中では唯一、ダイヤモンドと同じく炭素を主成分としています。
結晶構造もダイヤモンドに似ており、ダイヤモンド型の骨組みの中に炭素とケイ素が交互に積み重なった構造をしています。
モアッサナイト自体は天然にも産出しますが、希少性が高く一般の使用が禁じられているため、宝石として加工されるのは人工的に作られた人造モアッサナイトです。
人造モアッサナイトの特徴は、ダイヤモンドに近い硬度の高さと、ダイヤモンドを超えるファイアです。
モアッサナイトの硬度は9.25から9.5と、宝石の中ではダイヤモンドの次に傷つきにくいという強みがあります。
さらに、靭性はダイヤモンドより高く、ダイヤモンドよりも丈夫な宝石としての側面も持っています。
また、屈折率はダイヤモンドの2.42に対してモアッサナイトは2.65から2.69とダイヤモンドをわずかに上回り、光の分散度もダイヤモンドの0.044を上回る0.104と高い数値を誇ります。
そのため、ダイヤモンドよりも華やかなファイアを示すのが人造モアッサナイトの魅力です。
また、科学技術の進歩によって高純度で大型の結晶が大量生産できるようになったため、ジュエリーとしての需要もますます高まっています。
工業用としても広く使われており、その場合は「シリコンカーバイド」や「カーボランダム」と呼ばれることもあります。
ジュエリーとしても、工業用としても、今後のますますの発展が期待できる宝石です。
ダイヤモンド類似石のきらびやかな世界
その美しさゆえに多くの類似石を誕生させてきたダイヤモンド。
もちろん、本物のダイヤモンドにしかない圧倒的な魅力があることは確かです。
しかしながら、ダイヤモンド類似石もその歴史を紐解いてみると、それぞれに個性があり、魅力があることが分かります。
ダイヤモンドとその類似石のどちらを選ぶか迷った際は、当記事でご紹介したそれぞれの魅力を思い出しながら選んでいただければ嬉しいです。