自殺リスクと薬物乱用は夜中に急増する

研究チームは、仮説の根拠として、夜間に自殺や自傷行為のリスクが急増することを挙げています。
実際、2016年のペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の研究では、真夜中から朝6時までの自殺リスクは、他の時間帯に比べて3倍高いと報告されています。
自殺の件数自体は覚醒している人数に応じて昼間の方が多いのですが、夜間は覚醒している人が少ないにも関わらず自殺の件数が多く、覚醒に対する自殺の割合が非常に高くなっているのです。
また2020年のアリゾナ大学(University of Arizona)の研究では、夜間の覚醒が自殺の危険因子として挙げられており、「おそらく概日リズムの不整合によるもの」と推測されています。
クレマン氏ら研究チームは、例として不眠症に悩む学生について説明しています。
彼は、眠れない夜が続くうちに絶望感や孤独感に悩まされ、以前は頭にも上ったことのない自殺を、孤独や苦痛からの逃避として、夜中の感情の高まりとともに突発的に行う、というのです。

さらにチームは、仮説の根拠となりえる別の研究についても紹介しています。
ブラジル・薬物消費センターによる2020年の調査では、夜間のオピオイド(鎮痛薬に利用される麻薬)過剰摂取のリスクが、他の時間帯に比べて4.7倍も高いと報告されているのです。
クレマン氏ら研究チームも、ヘロイン常用者の例を挙げています。
彼らは、昼間は欲望をうまくコントロールできていますが、夜になると欲望が高まり、結局は負けてしまうのだとか。
もちろん、夜間における自殺リスクと薬物乱用の増加は、単に睡眠不足や、夜だと人目に付かないことが原因とも考えられます。
しかし研究チームは、「それだけではなく、おそらく夜間の神経学的な変化が作用している」と推測しています。
加えて彼らが危惧しているのは、パイロットや医師などの夜勤労働者の心に対する概日リズムの影響です。
私たちも不眠症だったり、仕事などで夜中起き続けたりする場合は、心がネガティブになってしまう傾向に注意した方がよさそうですね。
もちろん、今回の仮説はまだ証明されておらず、研究チームは、そのためにもさらに多くの研究が必要だと考えています。



























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