なぜクスンダ語の話者は消えてしまったのか?
クスンダ語は、ネパールの少数民族であるクスンダ族によって使用されてきた言語です。
クスンダ族は、20世紀半ばまで、ネパール西部の密林地帯を拠点とし、動物を狩っては近くの町まで降りていき、米やヤムイモ、小麦粉などと交換する半遊牧の生活を送っていました。
彼らは、クスンダという呼び名の他に、自分たちのことを「バンラジャ(Ban Rajas、”森の王”)」と称していました。
しかし、近代化にともなってネパールの人口が増加し、農業によって密林が分断され始めたことで、クスンダ族への圧力が強くなっていきます。
そして1950年代に、ネパール政府が森林を国有化したことで、クスンダ族は今までの遊牧生活ができなくなったのです。
彼らは村への定住を余儀なくされ、労働や農業に従事するようになりました。
その中で、クスンダの若者たちは近隣の他民族と結婚したり、故郷を離れるようになったことで、母語であるクスンダ語の話者が急激にいなくなったのです。
クスンダ族にとって母語を失うことは、アイデンティティを失うことにも繋がります。
国勢調査によると、2011年時点でクスンダ族と確認できた人は、すでに273人しか残っていなかったのです。
さらに、その中でクスンダ語を話せる人はほぼおらず、2014年には3人にまで減っていました。
そして2022年現在、クスンダ語を流暢に話せるのは、カマラ・カトリ(Kamala Khatri)さんという48歳の女性ただ一人になってしまったのです。
その理由のひとつには、クスンダ族の人々自身が、次代の若者や子どもたちにクスンダ語を伝えようとしなかったことにあります。
彼らは、クスンダ語特有の”複雑さ”から、グローバル化する現代社会では有用性がないと考えたのです。
では、クスンダ語には、どんな言語的特徴があるのでしょうか?