犬は飼い主と再会すると「涙目」になる!その原因や理由とは?
犬は約2〜3万年以上前に家畜化され、ヒトとの関係性が最も深い動物として知られます。
ヒトとの長い共生の中で、犬は卓越したコミュニケーション能力を発達させ、ついには私たちの最良のパートナーとなりました。
これまでの研究で、犬と飼い主の間には、ヒトの親子間で見られるような、情動を介した絆が形成されることがわかっています。
たとえば、犬にとって飼い主との別れはストレスになり、再会は喜びとなって、情動の変化に強い影響を与えます。
その中で、本研究チームは、愛犬と飼い主の再会場面に注目し、そのときの犬の変化を行動生理学に基づいて調査することにしました。
同チームの菊水健史(きくすい・たけふみ)氏は、今回の研究について、自身の愛犬(プードル)が6年前に出産したときの経験がきっかけになったと話します。
愛犬が生まれた子どもをあやしているときに、よく涙目になっていることに気づいたのです。
そこで菊水氏と同僚は、愛情を感じるときに分泌される”幸せホルモン”のオキシトシンが、涙液の分泌を促進しているのではないかと考えました。
実験では、複数の飼い主と愛犬のペアに協力してもらい、少なくとも5時間以上、飼い主と離れ離れになる時間を設けます。
次に、実験の前後における涙の量を測定し、「飼い主」および「見知らぬ他人」との再会を比べて、どんな変化の差が出るかを確かめました。
その結果、見知らぬ他人との再会では、犬の涙液量に変化が起きない一方で、飼い主と再会したときには、犬の目の涙液量が明確に増加していたのです。
このことから、涙の増加は、特別な関係のある飼い主との再会のように、犬の情動を激しく変化させる場面において誘発されることが伺えます。
これは、動物における「情動性の涙」の存在を示した初の成果です。
さらにチームは、涙液量を増加させている原因物質が、オキシトシンにあることを確かめるため、点眼液によって犬にオキシトシンを投与しました。
すると、目の涙液量が増加したことから、飼い主との再会による涙の増加は、オキシトシンの分泌が原因であると結論されました。
最後に、犬の涙が、ヒトに対して何らかの社会的作用を持つかどうかを調査しました。
まず、犬に人工涙液を点眼して涙目の状態にし、顔写真を撮影。
それから、点眼前と点眼後の犬の写真をヒトに提示し、どのような印象を受けるかを評価してもらいました。
その結果、点眼後の犬の方が、ヒトに対してポジティブで親しみやすい印象を与えやすく、逆に、点眼前の犬は「怖い」とか「避けたい」といったネガティブな反応を持たれやすいことが示されています。
以上のことから、
・犬は、飼い主との再会といったエモーショナルな出来事によって、涙液量を増加させること
・涙の増加は、”幸せホルモン”のオキシトシンによって促進されること
・涙目の犬は、ヒトに好印象を与えやすいこと
がわかりました。
視線を用いたコミュニケーション能力を高度に発達させてきた犬にとって、涙目はヒトに対し、保護行動や養育行動を誘引させる機能があると思われます。
つまり、再会のシーンで涙目を見せることは、飼い主に対し「もう2度と放っておいたりしないで」というアピールなのかもしれません。
こうした、情動による涙は、ヒトとの共生関係を育む中で、非常に有利に働いたと考えられます。