マヤの浣腸・肛門を落としたサソリ・愛と心臓の同期
美術賞:マヤの浣腸
最初に紹介するのは、古代マヤ人たちが行っていた「浣腸」を、研究者が自らの体に行ってみた自己犠牲精神にあふれる研究となります。
これまでマヤ文明の遺跡から、数多くの陶器が発見されています。
陶器にはマヤ人たちの宮廷生活・球技・狩り・生贄の様子も描かれており、当時の様子を知る重要な手掛かりになっています。
そのなかでも特に異彩を放っていたのが、儀式的な浣腸シーンでした。
直腸は壁が薄く血液が豊富に流れているために、アルコールや薬の成分がすぐに吸収されることが知られています。
どうやら古代マヤ人たちも直腸の吸収率の高さに気付いていたようであり、複数の陶器において、アルコール・タバコ・幻覚作用のあるキノコや植物など精神に作用するものを、儀式の効果を高める目的で「浣腸」しているシーンが描かれています。
しかしこれら精神作用のある物質を実際に浣腸してみた人間からの報告はなく、儀式に利用できるような酩酊状態が実際に得られるかは謎でした。
そこでオランダ薬剤師協会のデスメット氏は、自らの体を使って、陶器に描かれていると考えられるいくつかの物質の有効性をテストすることにしました。
ただ候補となる物質の中には手に入りにくいものも多いため、主に調査されたのは酩酊作用のあるアルコールと幻覚作用のあるジメチルトリプタミン(DMT)となりました。
結果「直腸にアルコールを入れると良く吸収される」という事実が確認できた一方で、ジメチルトリプタミンには目立った効果が確認できなかった、とのこと。
ただ現在のところ、試行回数をあらわすN数が1であり、投与量もかなり少なくなっています。
そのため将来的にデスメット氏はサンプルサイズと投与量を拡大するために、さらなる研究が必要であると述べています。
科学発展のために、自らの肉体(肛門と直腸)を差し出した研究者の情熱には、頭が下がる思いです。
生物学賞:肛門を無くして便秘になったサソリ
次に紹介するのは、肛門をなくしても交尾を諦めないサソリの話になります。
トカゲの尻尾切りに代表されるように、一部の動物たちは自らの体の一部を切り離して、逃げる戦略を採用しています。
サソリの一種である(Ananteris balzani)もまた、尻尾の部分を犠牲にすることが知られています。
しかしサソリの尻尾はトカゲの尻尾とは異なり、肛門を含む消化管の後ろ部分(メタソーマ)を含んでおり、尻尾切りによって二度と排便することができなくなってしまいます。
そのため尻尾切りから数か月後、サソリは極度の便秘によって死亡する運命にあります。
ただこれまで、尻尾切りが行われたサソリの歩行能力については、詳しく調べられることはありませんでした。
そこで研究者たちは154匹のサソリを対象に、尻尾が切られた後の運動能力を調査することにしました。
結果、特に影響がないことが判明。
研究者たちは、尻尾と一緒に肛門を失ったサソリたちは便秘による避けられない死に屈する前に、交尾を行って子孫を残すことができると述べています。
通常、体の一部を切り離す「自切」は生存に影響のない部分に対して行われます。
しかしこのサソリの場合は、即座の死を回避する代わりに、数か月後の死を受け入れ、短い猶予の間に命のバトンを次の世代に受け渡していたのです。
応用心臓病学賞:惹かれ合う2人は心臓が同期する
運命の出会いが起こるとき、2人の心臓は同じリズムを刻み始めました。
多くの詩人たちは、一目で互いに愛し合うようになる運命的な愛について歌っています。
私たちは誰しも心の中に、パートナーに望む資質のリストを持っていますが、運命的な出会いはそれらのリストを全て吹き飛ばしてしまうこともあり得ます。
しかし、その直感がどんな仕組みで2人の心を引き寄せているかは不明でした。
そこで研究者たちは140人の参加者にペアになってもらい、数秒の視覚的な接触と2分間の言語的接触および非言語的接触を行ってもらい、もう一度相手に会ってデートしたいかを尋ねました。
結果、全ペアのうち17%において、男女の意見が一致してお互いにまた会いたいと望む「相思相愛」の状態であることが判明します。
また出会っている最中の被験者たちのさまざまな生理データを収集して分析したところ、お互いにまた会いたいと願っているペアにおいて、心拍数と皮膚の電気的活動の同期が増していることが判明しました。
なぜ相思相愛だと心臓や皮膚の活動が同期するかは、不明です。
もしかしたら私たちの体は、私たちの意識が認識できないような信号を常に他人に送り合っているのかもしれません。