日本の海で初発見された「ワニグチツノザメ」とは?
ワニグチツノザメは1986年、愛知県の底引き網漁船「精漁丸」によって、和歌山県・潮岬(しおのみさき)の水深330メートルから、世界で初めて発見されました。
その個体は、全長22センチほどの未成熟のオスで、タイプ標本として指定されています。
その後の科学的な調査で、カラスザメ科の一種と特定され、学名は「トリゴノグナトゥス・カベヤイ(Trigonognathus kabeyai)」と命名されました。
属名のトリゴノグナトゥスは、ギリシア語の「トリゴノン(trigonon :三角形)」と「グナトゥス(gnathus:アゴ)」を組み合わせたもので、種小名のカベヤイは、当時、精漁丸の船長だった壁谷(かべや)氏に由来します。
5 Rare (Maniacal-Looking) Viper Sharks Caught in Taiwan https://t.co/JeVLUhVqyf pic.twitter.com/F3FgAJ1Eft
— Azula (@azula) January 7, 2018
円筒形で真っ黒い胴体を持ち、青いビー玉のような瞳と、釣り針のように尖った歯が特徴的で、腹部には深海生物によく見られる発光器を無数に備えています。
ワニグチツノザメは今のところ、日本、台湾、ハワイの沿岸部でしか見つかっていません。
2018年には、台湾の東河郷(とうがきょう)付近で、一挙に5匹のワニグチツノザメが捕獲され、大きな話題となりました。
(ただし、うち4匹はすでに死亡しており、あとの1匹も水槽内ですぐに死んでいる)
日中は、水深300〜500メートルの深海に生息しているため、直接の目撃例はほぼ皆無ですが、夜になると、水深150メートル付近まで上がってくることがわかっています。
平均的なサイズは、20センチを超える程度で、最大でも50センチほどと、大きなサメではありません。
しかし、その最大の特徴は、飛び出す上アゴです。
The viper dogfish is a rare species of shark that resides deep in the ocean. They eject their jaws out of their mouth to catch prey. pic.twitter.com/SG3jEvzzVO
— Fascinating (@fasc1nate) October 13, 2022
解剖学的な調査により、ワニグチツノザメは、口を大きく開けて上アゴを外し、それを前方に突出させられることが明らかになっています。
まるで、エイリアンの飛び出す口のようです。
研究者によると、ワニグチツノザメは、腹部の発光器をチラつかせて小さな獲物をおびき寄せ、口元に近寄ってきたところで、アゴを飛ばして捕食すると考えられています。
こちらは、ワニグチツノザメの捕食のイメージ映像です。
ここ数年はワニグチツノザメの捕獲情報もありませんが、Twitterアカウント「Fascinating」が、本種の画像をシェアしたところ、またたく間に多くの注目がありました。
ユーザーからは、「ヴェノムに似ている」「こんなグロテスクな生き物を誰が作ったのか」「これで海に対する恐怖がさらに増した」といった声が寄せられています。
また、ワニグチツノザメと同じような能力を持つ深海ザメとして、「ミツクリザメ(Goblin shark)」の捕食シーンを紹介している人もいました。
The goblin shark does the same thing! 🙂 pic.twitter.com/HgNCCXti7K
— Valkyrie (@ValkyrieWX) October 13, 2022
ミツクリザメは、日本を含む世界各地の深海に分布し、英名でゴブリン・シャークと呼ばれるように、とても不気味な顔をしています。
細長く伸びた吻(ふん)で獲物を探し出し、その下側のアゴを折り畳んだ袋を広げるように突出させて、獲物を丸呑みします。
このように、真っ暗な深海で生き延びるには、効率的に獲物を捕らえるための工夫が必要不可欠です。
フィクション顔負けのモンスターたちの存在は、「深海」という極端な環境でこそ可能になったのでしょう。