コックリさんを信じさせる3つの要因
1つ目の要因は観念運動効果(ideomotor effect)と呼ばれる人間の無意識の動きです。
たとえばある研究では、参加者たちに「高齢者」にかかわる単語を含む作文を行ってもらったところ、その後の参加者たちの歩行速度が明らかに低下したことが判明しました。
高齢者にかかわる作文を作るという行いが被験者たちの無意識に影響し、被験者たちの歩行運動(脚の筋肉)に大きな影響を与えていたのです。
同様の無意識による観念運動効果は、ダウジングなど他のさまざまなオカルト的な現象の原因となっていると考えられています。
また2019年に行われたアイトラッカー(視線追跡装置)を使った研究では、実験を行う時間が長くなるにつれ、参加者たちの視線が指を乗せた木片の動きに先行予測するようになっていくことが判明しています。
もし霊的存在が本当に参加者たちの意思や無意識に関係なく10円や木片を動かしているなら、指の動きと参加者たちの視線は一致しないはずです。
つまり、コックリさんの結果は、参加者たちの知識や経験をもとに、参加者たちの無意識の声を反映しているものになっているのです。
実際「原子番号100番の元素名」や「見知らぬ人の趣味」など、参加者たちの誰もが知らない情報の正誤を訪ねた実験では、コックリさんは正しい答えを当てることはできませんでした。
この結果は、コックリさんの解答能力も参加者たちの集合知に依存することを示します。
2つ目の要因は主体性(agency)と呼ばれる、目の前の現象が自分の行動によって起きていると信じる能力です。
通常、目の前にある自分のPCやスマホの検索画面にキーワードが入力されているのは、自分が文字を打ち込んでいるからだと、自分の主体性を信じることができます。
何のことはない能力に思えますが、コックリさんでは、この主体性を信じる能力が上手く機能していないことが問題になります。
以前に行われたコックリさん研究では、研究者が人為的な方法で参加者の主体性の感覚を操作したところ、参加者は霊的な存在が10円玉や木片を動かしていると答える傾向が強くなりました。
また参加者たちの主体性を信じる能力を測定したところ、主体性を信じる能力が低い人ほど、霊的な存在の介入を感じる傾向が高くなりました。
つまり、自分たちの指を置いている10円玉の動きが自分たちの意思によるものだと信じることができない人ほど、コックリさんのとりこになりやすいのです。
3つ目の要因は感情の伝染です。
コックリさんにおいては、この3つ目の感情の伝染が最も強い悪影響を与えます。
1つ目の無意識の影響(観念運動効果)や2つ目の自分の行いを自分がやったと信じる能力(主体性)はの影響は、本人のみに留まります。
しかし主体性が乏しい人間が、自らの無意識的な動きに霊的存在の介入を感じて、恐怖を覚えて騒ぎ出した場合は異なります。
私たち人間を含む社会的な動物には、別の個体が感じた恐怖を自分の恐怖のように感じる「恐怖の伝染」を起こす能力があります。
この能力は本来、捕食者や自然災害などの脅威を集団に素早く伝達することで逃走をうながし、生存率を上げるために存在します。
しかしコックリさんではしばしば「霊と交信している最中は指を離してはいけない」「コックリさんからは逃げられない」など逃走不可な条件が付け加えられています。
そのため、恐怖を感じた参加者の間で恐怖が伝染されながら増加していっても、逃げることができず、結果的に発狂などを起こしてしまう場合があります。
たとえばコックリさんが大流行していた1973年、ある群馬県の中学校において、コックリさんを行っていた女子生徒たち数人が集団パニックを起こした事例が記録されています。
また南米ペルーではコックリさんに似た儀式から発生した恐怖が80人にも及ぶ生徒たちの集団発作を引き起こした事例も報告されています。
以下の動画はパニックを起こした生徒たちの様子です。
(注意:衝撃的な光景なので注意してください)
同様の集団パニックはさまざまな時代や国で繰り返されており、コックリさんに起因する恐怖の伝染が人間の精神に重大な影響を与えていることを示しています。
そうなると気になるのが、コックリさんを行っているときの人間の脳の様子です。
コックリさん先進国である日本で2013年に発表された研究では、コックリさんを行うことで生じる非常に興味深い脳現象を発見しています。