殺菌作用のある植物を意識的に探して食べていた!
ノガンは現在、西ヨーロッパや北西アフリカ、中央〜東アジアの草原に分布し、全個体数の70%はイベリア半島(スペインとポルトガル)に生息しています。
興味深いのはその繁殖方法で、毎年4月の交尾シーズンになると、オスが特定の同じ場所に集まってメスのための求愛ショーを始めるのです。
観客であるメスはショーを見て、外見の質や丈夫さから好みのオスを繁殖相手として選びます。
オスが集団で求愛する場所をレックと呼ぶことから、これを「レック繁殖」と呼びます。
一方で、このショーはたった一人の運命の相手を見つけるものではなく、結局は1羽のオスが複数のメスと交尾するため、性感染のリスクがあります。
加えて、同じレックに集団で長く留まるので、フンを介して病原菌や寄生虫に感染する危険性もあるのです。
特にオスは、ショーのためにかなりの体力を消耗しており、感染症を起こすと、免疫力が急激に低下する恐れがあります。
にも関わらず、毎年のレック繁殖を無事に終えていることから、ノガンは何らかの感染対策を講じていると考えられます。
そこで今回の研究チームは、彼らの感染対策を明らかにするべく1980年代から主にスペインのマドリードとカスティーリャ・イ・レオン地方で野生ノガンのフィールドワークを続けてきました。
そして、これまでに採取した合計623個のフン(4月の交尾シーズンをフン178個を含む)を顕微鏡で観察し、そこにどんな植物が含まれているかを調査。
そのラインナップをノガンが日常的に食べている90種の植物と比較しました。
分析の結果、ノガンは殺菌作用のある「ヒナゲシ(学名:Papaver rhoeas)」と「シャゼンムラサキ(学名:Echium plantagineum)」の2種を積極的に食べていることが判明したのです。
しかも、この2種は他の植物と比べて数が豊富なわけでもないのに、フン中での割合が顕著に多かったのです。
これはノガンが意識的にこの2種を探して食べていることを示します。
また、雌雄や季節ごとに比較すると、4月の交尾シーズンにおけるオスのフン中で、2種の植物の割合が最も多くなっていることが明らかになりました。
これは交尾期にオスのエネルギー消費量や感染リスクが最大化することと密接に関係していると思われます。
さらにチームは、ヒナゲシとシャゼンムラサキから、強い生物活性を持つアルカロイドなどの化合物を単離し、鳥類によく寄生する3種の寄生虫および真菌への作用を試験管内で実験。
その結果、2種の植物ともに、原虫と線虫を死滅させる強い効果を持ち、シャゼンムラサキには、真菌に対しても中程度の殺菌作用があることが分かりました。
研究主任のルイス・バウティスタ=ソペラナ(Luis Bautista-Sopelana)氏は、これを受けて「ノガンは殺菌作用のある植物を意識的に食べて、セルフメディケーションをしている可能性が非常に高い」と述べています。
このような自己メンテは自然界にいくつかの先例があり、たとえば、イルカが薬効のある珊瑚に体をこすりつけたり、チンパンジーが傷口に昆虫を塗り込む姿が観察されています。
自己メンテができる動物はどれも賢い種であることから、ノガンも見た目に違わぬ高い知能を持っているようです。