人間は痛みを感じると本能的に触覚で痛覚を中和しようとする
人間も動物も体の一部が痛いとき、本能的にこすったり、マッサージしたり、振ったりと繰り返し触覚に刺激を与えることが知られています。
人間では頭や歯が痛むときにコメカミを抑えてグリグリと刺激したり、足の小指を家具のカドにあててしまったときに小指のあたりを必死でさする行為が該当するでしょう。
コメカミをグリグリしたり、ぶつけた小指をさすっても、痛みの原因が消え去るわけではありません。
しかし私たちの多くはそうすることで、辛い痛みが「多少」マシになることを知っています。
過去に行われた研究では、この不思議な現象には「脊髄」が大きな役割を担っていることが示されています。
脊髄には触覚に反応して痛覚の信号が減少する仕組みが組み込まれており、痛みを発している体の近くを刺激することで、触覚を使った痛覚の上書きが可能になっています。
しかし近年の研究により、触覚による痛覚の緩和には脳もかかわっている可能性が示されるようになってきました。
ただ脳は脊髄よりも遥かに複雑であり、動物が感じた特定の痛みの反応を追跡するのは困難でした。
またマウスを用いた痛みの解明も「マウスの習性」が大きな問題となっていました。
マウスの頭部に痛みを与えた場合、マウスは頭部をこする「毛づくろい」に似た動きをみせます。
しかし、この「毛づくろい」的な動作はマウスにとって全身全霊を傾けるものであるらしく、マウス脳内では「毛づくろい」信号に痛覚の信号が完全に圧倒されてしまい、詳しい痛み信号の追跡ができなかったのです。
そのためマウス脳で触覚がどのように痛覚を緩和するかを調べるには、人間が行う「コメカミをさする」ような、もっとマイルドなマウスの動作を利用する必要がありました。
といってもマウスたちに、毛づくろい的な動きをやめて、人間のようにコメカミに触れてもらうように頼むわけにはいきません。
そこで今回、MITの研究者たちは、「コメカミへの触覚」の代りとしてマウスの「ヒゲの触覚」を使うことにしました。