マウスは「ヒゲの触覚」で痛みに強くなる
マウスは探索時にはヒゲを頻繁に動かすことが知られており、このときマウスの脳にはヒクヒクと振動する自分のヒゲの動きが触覚として感知されます。
人間の「コメカミへの触覚」とマウスの「ヒゲの触覚」は一見すると全く別物のように思えますが、どちらも顔面神経から発生する感覚という点では同じです。
そのため、もしマウスが感じる「ヒゲの触覚」にも、人間の「コメカミへの触覚」と同じような効果がある場合、触覚による痛みの軽減がどのように起きているかをマウス実験から調べることが可能になります。
調査にあたってはまず、マウスの頭部を器具によって固定し、ヒゲの動きを正確に評価できるようにしました。
次に研究者たちはこの状態のマウスのヒゲがはえている部分にさまざまな痛みを与え、マウスたちが自分のヒゲの動き(触覚)を感じているときとそうでないときの、脳活動を調べました。
結果、マウスたちは自分たちの「ヒゲの触覚」を感じているときには、痛みを感じにくくなっていることが判明。
また触覚信号と痛覚信号を追跡したところ、痛覚信号は視床の後内側腹側核(VMP)から体の感覚を司る体性感覚皮質へと通じる触覚回路によって制御されていることが判明します。
そして触覚信号が発生すると、この触覚回路への干渉が起こり、体性感覚皮質ニューロンの反応性が低下していました。
またこの触覚回路を破壊した場合には逆に、触覚による痛覚の緩和が起こらなくなっていることも示されました。
この結果は、脳内で触覚が痛覚を司る脳領域の反応性を鈍らせ、痛覚を減少させている可能性を示します。
研究者たちは同様の仕組みが人間にも存在しており、人間の脳も触覚を利用して痛覚の強度をコントロールしている可能性があると述べています。
実際、これまでの研究により、脳の視床に影響を与える脳卒中によって患者が慢性の痛みを感じるようになる「慢性疼痛(まんせいとうつう)」が発生することが知られています。
このようなケースは視床がダメージを受けたことで、触覚による痛覚の抑制を行うための回路が遮断されたことが原因となっている可能性があります。
研究者たちは今後も触覚による痛覚の緩和の仕組みを解明していくとのこと。
もしかしたら現在行われているツボ刺激やマッサージによる触覚刺激が近い将来、痛み緩和のための正式な医療行為になっているかもしれませんね。