細菌を狩るウイルスを食品にスプレーして滅菌することに成功!
現在、世界中では毎年数十万人が食中毒によって死亡しており、その約3分の1が幼い子供たちとなっています。
食中毒の主な原因となっているのは、サルモネラ菌やリステリア菌、O157など、食品に付着した病原性の細菌となっています。
病原菌を排除するには抗生物質や殺菌剤が有効ですが、過度な使用は耐性菌を生じさせる原因となってしまいます。
一方で、自然界には人間に食中毒を起こす病原菌を宿主とするウイルスたちが存在することが知られています。
そこで今回、マックマスター大学の研究者たちは、食品の表面に存在する病原菌に感染して殺すことができるウイルススプレーを開発することにしました。
これまでもウイルスを利用した滅菌方法が提案されてきましたが、新たに開発された方法では、病原菌を狩るウイルスを運ぶ方法が非常にユニークとなっています。
新たに開発されたスプレー液を作るにはまず、上の図のように、細長い繊維状の構造をとらせたM13ウイルスを丸いビーズ状に加工することからはじめられます。
ビーズを拡大すると、巻き付けられた繊維状の構造が表面を覆っている様子が確認できます。
このビーズ(ウイルス団子)の主な役割は病原菌と戦うことではなく、広い表面積を生かして別の攻撃的なウイルスを運ぶ容器となることです。
次に研究者たちは、このビーズに、多剤耐性能力を獲得した大腸菌「O157:H7」に感染して殺すことができる攻撃用ウイルス「HER262」を結合させ、スプレー液に添加しました。
(※大腸菌O157はしばしば食中毒の原因となることが知られていますが、O157:H7はさらに多剤耐性能力を獲得したバージョンです)
攻撃用のHER262ウイルスは1つのビーズあたり数百万個が結合しており、1回のスプレーで無数の攻撃用ウイルスを食品表面に塗布することが可能になります。
研究者たちは攻撃用ウイルスだけをスプレー液に加えるより、ビーズ状にした輸送用ウイルスに結合させたほうが耐久性と利便性が向上したと述べています。
スプレー液の準備が整うと、研究者たちは汚染された食品を再現するためにレタスと肉の表面に大腸菌O157:H7を塗り付け、最後にウイルススプレーを吹き付けて9時間放置しました。
結果、ウイルススプレーを吹きかけられたレタスでは多剤耐性大腸菌O157:H7はほとんど検出されないレベルまで低下しており、肉でも99.94%が除去されていたことが判明します。
研究者たちはビーズに結合させる攻撃用ウイルスを変更することで、サルモネラ菌やリステリア菌など他の食中毒を起こす病原菌を除去することが可能であると述べています。
また狙った細菌だけを殺すというウイルススプレーの特性は、細菌の発酵を利用した食品に対しても利用できる可能性を示しています。
チーズや納豆などの製造過程で強力な殺菌剤や抗生物質を使ってしまった場合、病原菌だけでなく発酵に必要な乳酸菌や納豆菌も死滅してしまいます。
しかし狙った細菌のみを駆逐できるウイルススプレーを使うことで、乳酸菌や納豆菌には害を与えず、問題となる菌だけを排除することが可能となります。
研究者たちは今後の計画として、ウイルススプレーが医療現場でも使用に耐えるかを確かめていく、とのこと。
医療現場ではさまざまな抗生物質が効かなくなる多剤耐性菌が大きな問題となっていますが、ウイルススプレーは病原菌の天敵となるウイルスを利用しているため、抗生物質が効かない多剤耐性菌にも高い効果が期待できます。
もしかしたら近い将来、スーパーの生鮮食品の売り場や病院の手術室では、ウイルススプレーを吹きかける光景が一般化しているかもしれません。