経験豊富な”チャラい”オスとは両想いにならない⁈
メダカは特定のパートナーを持たずに繁殖する「乱婚制」のため、通常のオスはチャラいパリピのような状態です。
しかし、今回の研究では、幼年期からメスのいない環境で飼育し異性との接触がまるでないまま大人になった限界オタクのような未経験メダカを準備しました。
その未経験メダカが「特定のメス」と繰り返し性交することで、行動がどのように変化するかを実験したのです。
実験ではまず、未経験オスを水入りの小型ビーカーに入れ、メスのいる大きな水槽の中に設置し、お互いに”お見合い”をさせました。
それが終わると、小型ビーカーからオスを水槽に移し、メスと直接触れ合わせます。
このとき、「オスが最初に求愛するまでの時間」が短いほどオスの求愛活性が高く、他方で「メスがオスの求愛を受け入れるまでの時間」が短いほどメスの性的受容度が高いと判断されます。
その結果、複数回の性交を繰り返す中で、求愛〜性交までの時間が顕著に減少し、「オスの求愛活性」と「メスの性的受容度」の両方が上昇することが判明したのです。
次に、オスが初めての相手となったメスを記憶・識別しているかを確かめるため、実験の途中でパートナー(メス)を入れ替えるテストを実施。
すると、求愛〜性交までの時間は、数回の性交を繰り返す中でも減少しませんでした。
このことから、未経験オスは初めての相手との間のみで性的動機を高めており、メスもこれに応じることで、いわゆる「両想い」の状態になっていたと考えられます。
一方、「7回以上の性経験を持つオスメダカ」を用いて同じ実験をしたところ、オスの求愛活性もメスの性的受容度も上昇しないことが明らかになりました。
つまり、”チャラい”オスは特定のメスに夢中になることもなければ、メスの方でも特定のオスに関心を強めることはなかったのです。
最後にチームは、次世代シーケンサー(遺伝子配列を高速で読み取れる機械)を使い、未経験オスの脳内において、性交後に発現する遺伝子群を分析。
その結果、未経験オスの脳では、数回の性交によって甲状腺ホルモン関連遺伝子群の発現が上昇することが分かりました。
よって、甲状腺ホルモンが特定のメスに一途になるような行動変化に関与していると思われます。
甲状腺ホルモンは以前から、体の発達や代謝に重要なホルモンであることが知られていますが、性経験によりオスの脳内で甲状腺ホルモンが活性化するという報告は過去にありません。
研究チームは「将来的に甲状腺ホルモンの関与を検証することで、メダカが性経験依存に行動変容するメカニズムの解明が期待できる」と述べています。
メダカの実験とはいえ、経験がないからこそ初めての相手に一途になり、一途だからこそ結ばれるというのはなんだか素敵な話に聞こえますね。