「食べ物なし」ではどれくらい耐えられる?
人が食べ物なしで生存できる日数は、水なしに比べるとずっと長くなります。
それは先ほど説明したように、筋肉や脂肪の貯蓄があるためです。
一般に人体は、摂取した食べ物を燃料としてエネルギーに変換します。
たとえば、三大栄養素として知られる炭水化物はグルコース(ブドウ糖)に、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸に変えられ、エネルギー源となります。
また食べ物の摂取が途絶えても、人体は脂肪や筋肉として貯蓄したエネルギー源を燃やすので、ある程度は食事抜きでも大丈夫です。
専門家は、食べ物なしで成人が耐えられる限界は平均して3週間ほどと考えています。
ところが、それらの貯蓄を使い切ってしまうと、心臓が血液を全身に送り出すのに十分なエネルギーがなくなり脈拍と血圧が下がって飢餓状態に陥ります。
こうなると胃腸の働きが悪くなり、腹部の膨張や胃痛、嘔吐、吐き気、さらには細菌感染などが起こります。
エネルギーを奪われた脳も正常に機能しなくなり、意識がボーッとし始めるでしょう。
そして、食べ物なしで最も長く生き延びた記録は、アイルランドの政治家テレンス・マクスウィニー(1879〜1920)の74日間です。
マクスウィニーは1920年のアイルランド独立戦争中に、アイルランド南部のコーク市長に選出されましたが、扇動罪という名目でイギリス政府により逮捕されます。
これを不当とした彼は、獄中内でハンガーストライキを開始。
警官の出す食事を頑なに拒否し続け、69日目に昏睡状態に陥り、そのまま意識が回復することもなく、ストライキ開始から実に74日後に息を引き取りました。
専門家は、このようなハンガーストライキの事例は皮肉にも、人がどれくらい食事なしで過ごせるかを示す最も信頼できるデータを提供していると話します。
管理された環境での飢餓実験は倫理的にNGですが、ハンガーストライキは意図せず飢餓状態の有力データとなっているのです。
実際、1997年に発表された研究(Michael Peel,BMJ(1997))では、ハンガーストライキで自発的に食事を止めた人は、平均して45〜61日後に死亡していると報告されています。
このため、人が食事抜きで生存できる期間は、3週間(21日)を過ぎると危険域に入ると考えられます。
これを見ても、人体は食事抜きの方が水抜きよりもはるかに長く耐えられることが分かります。
無人島に遭難した際には、こうしたタイムリミットを心に留めて行動するといいかもしれませんね。