赤い体は「強い紫外線」から身を守るためだった
アナタカラダニは東京ではだいたい春先の3月なかばに発生し、コンクリート壁など日当たりの良い人造構造物に生息し、梅雨の頃に卵を産んで、次の春まで卵で休眠します。
そのため、カベアナタカラダニは春先の強い紫外線にさらされやすい環境で暮らしています。
研究チームはこの点が、彼らの赤い体色に関連しているのではないかと考えました。
紫外線が当たると細胞に有害な活性酸素が発生します。
これは私たちにとっても有害なもので、シミ、ソバカスや皮膚がんの原因になったりします。
ですから、紫外線にさらされやすいカベアナタカラダニも活性酸素の生成による酸化ストレスに対処する必要性が出てきます。

抗酸化作用のある物質として、自然界で有名なのがカロテノイドです。
これは野菜のトマトやニンジン、生物ではフラミンゴやロブスターが派手な赤や橙色をしている原因の色素で、彼らの酸化ストレスの防御に重要な役割を持っています。
同じダニ類で、植物の葉上で強い日光にさらされて生活する「ミカンハダニ(学名:Panonychus citri)」も、カロテノイドの一種「アスタキサンチン」を合成・蓄積することで、酸化ストレスから身を守っていることが知られています。
そこで研究チームは、カベアナタカラダニにも同様のことが起こっているのではないかと考え、色素中のカロテノイド組成を測定してみました。
その結果、カベアナタカラダニのド派手な赤い色素(カロテノイド)は、抗酸化作用を持つアスタキサンチン(60%)と3-ヒドロキシエキネノン(30%)、少量のβ-カロテン(2%)から構成されていることが判明したのです。
ミカンハダニは、これまで知られているダニのうちで、アスタキサンチンの量がかなり多い種でしたが、カベアナタカラダニはそれを遥かに上回る127倍もの量を持っていました。
これは既知の甲殻類を含む微小節足動物の中でも最も高いレベルだという。
ロブスターなどが赤い原因にも関連するカロテノイドをそれだけ大量に持つからこそ、カベアナタカラダニは頭からつま先まで全身が真っ赤だったのです。

さらに彼らの有するカロテノイドは餌となる花粉から合成されており、高い抗酸化活性を持っていることが分かりました。
よってド派手な赤い色素は、太陽の紫外線やコンクリート壁の強い輻射に対して、カベアナタカラダニの生存を大いに助けていると考えられます。
ところで、赤色に生存のためのメリットがあることは分かりましたが、それは同時に重大なデメリットを生んでいるのではないでしょうか?
ずばり、派手さのせいで捕食者に見つかりやすくなることです。
しかし研究者によると、その点は何の心配もないとのこと。
というのも彼らの天敵であるアリやカメムシは、赤色に対する視細胞を持っていないため、赤色が識別できないのです。
なので、私たちにとってはコンクリートの上で異様に目立つ彼らの赤色も、捕食者の狩猟行動に影響は与えていないと考えられます。
今まで知っていて気になってもいたのですが、調べた事はなく、今日スッキリしました。
詳しい解説ありがとうございました。
いいよ
クモの子どもか何かかな?と思っていた謎の赤い小虫がダニだったことにまず驚き!
しかもその赤さの理由がとても合理的で、説明がひとつひとつ進むごとにパズルのピースがはまっていくかのような気持ちよさすらありました。
今度見かけた時は赤ダニをじいっと見つめてしまうかも。
面白い!派手な色にはそんな理由があったのか!
高濃度のアスタキサンチン、どうにか抽出して利用できないだろうか
サプリ業界や化粧品業界で大人気の成分だから