人工組織の移植でブタのED治療に成功!
EDの話題は主に心因性に焦点が当てられがちですが、産業事故やバイク事故などの外力で陰茎が折れ、海綿体白膜の裂傷が発生することで起きる場合もあります。
こうした身体的な損傷のED治療は、心因性の場合と異なり容易ではありません。
今回研究チームが焦点を当てたのは、ペニスの勃起維持に直接関与する「白膜(はくまく、tunica albuginea)」という組織の損傷を治療する方法です。
白膜は繊維性の鞘状になっており、ペニスに血液を送り込んでその戻りを防ぎ、硬化させる機能があります。
これが損傷していると繊維が伸縮せず、勃起時の軟〜硬への移行ができません。
つまり、身体的な勃起不全(ED)となります。
これまでの研究で、損傷した白膜の修復に焦点を当てた例はあるものの、その主な手段は、患者の体内の他の組織から切り取ったパッチを移植するものでした。
しかしこの場合、患者の免疫システムがパッチに対し拒絶反応を示したり、合併症を起こすことが問題となったのです。
また、パッチの微細構造が天然の白膜とは異なるため、機能的に置き換えることも困難でした。
哺乳類の白膜は基本的に、平行に並ぶ波状のコラーゲン繊維が直交する形で二層に重なる構造をしています(下図を参照)。
そこでチームは、合成樹脂の一種であるポリビニルアルコールをベースとした「人工白膜(artificial tunica albuginea:ATA)」を作成しました。
ポリビニルアルコールは、天然の白膜と同じく波状にカールした繊維構造を持っており、そのおかげで機能的な特性を忠実に模倣することができたのです。
チームはまず、ATAが生体に対して有害でないかを確認すべく、毒性や血液適合性を実験して、他の組織に害を与えないと判断しました。
そして次に、損傷したブタのペニスに白膜を模したATAパッチを移植し、機能を検証。
その結果、ブタのペニスは移植後すぐに正常なペニスと「ほぼ同等な」勃起機能を回復させることに成功したのです。
また術後1カ月の検査でも、良好な勃起機能が得られたことが確認されています。
研究者は「ATAの有効性はほぼ予見できましたが、それでもこれほど迅速に正常な勃起機能を回復させられたことには驚いた」と述べています。
その一方で、ペニスの損傷では通常、白膜の組織だけがダメージを受けるわけではありません。
周囲の血管や神経、ペニスの軸を貫く海綿体(スポンジ状の勃起性組織)も一緒に損傷することが多く、ATA(人工白膜)以外の手法が必要となります。
今回の結果で「ほぼ同等な」回復が見られたと注釈したのは、そのためです。
研究者は「現時点での私たちの研究は、ペニスの部分的な修復にのみ焦点を当てており、次の段階では、全体の修復を総合的に検討することになるでしょう」と話しました。
それでもATAは人の男性器に対しても有効だと考えられており、今後の研究次第で、男性の勃起不全(ED)の治療法の一つとなるかもしれません。