なぜ鶏肉は牛肉と比べて食中毒リスクが高い?
食中毒の主な2大原因は「不十分な加熱」と「食品間の細菌汚染」です。
調理温度が不適切であったり、加熱時間が不足していると有害な細菌が死にませんし、ある食材の細菌が手についたままサラダ用の野菜などを触ってしまうと、そこに細菌が移動してしまいます。
そして、この2大原因を最も引き起こしやすい食材が、鶏肉なのです。
たとえば、牛肉は鶏肉と違ってレアで食べても問題ありません。
これは牛の体質や飼育環境から、牛肉の中に危険な細菌が存在しないことが分かっているためです。
ただし牛肉の内側は無菌でも、外側は精肉の過程でカットしパック詰めするまでに細菌が付着することがあります。
なので牛肉でも外側は火を通さなければなりません。
一方で、鶏肉はカンピロバクターやサルモネラ菌といった有害な細菌が内側まで潜んでいる可能性が非常に高いです。
というのも、これらは鶏の腸管内に普通に存在する細菌だからであり、日本国内の調査によると、市販の鶏肉のカンピロバクター汚染率は平均して7割近くに達すると言われています。
それゆえ、加熱が不十分な鶏肉を食べてしまうと食中毒を引き起こし、激しい腹痛や下痢、発熱に見舞われます。
死にいたることは基本的にありませんが、カンピロバクター感染後の数週間で、顔面や手足の麻痺、呼吸困難といった「ギラン・バレー症候群」を引き起こす患者がまれにいます。
しかし、カンピロバクターやサルモネラ菌は熱に弱いため、中までしっかり火を通せば心配ありません。
中心部まで75℃で1分間以上も加熱すれば、鶏肉の細菌は死滅すると言われています。
水洗いで鶏肉の細菌が飛び散ってしまう
では、本題の鶏肉を水洗いすべきでない理由ですが、これは一言でいうと、鶏肉に付着している細菌がキッチン中に飛び散る可能性があるからです。
特に水道の蛇口でバシャバシャ洗ってしまうと、お皿や調理器具、側に置いてある食材などに細菌が飛び移る恐れがあります。
最近の研究(Physics of Fluids, 2022)では、高速度カメラを用いて、鶏肉の表面から水滴がどれだけ飛び散るかが検証されました。
この実験では、水流が強くなるほど、あるいは蛇口と鶏肉の距離が遠いほど、水滴が飛び散りやすくなることが判明しています。
また鶏肉の表面が柔らかいため、水流によって不規則なくぼみができ、それによって水滴が思いも寄らぬ方向まで飛んでしまうことも明らかになりました。
実際、キッチン周りに寒天培地を置いた実験でも、鶏肉の水洗いで飛び散った水滴中の細菌が付着して、増殖することが確認されています。
硬い野菜や食器を水洗いするときとは違い、自分でも予想できない方向や距離、範囲まで細菌が飛んでいる可能性があるのです。
そのため、専門家は「鶏肉は洗わずに十分に加熱するのが最も簡単かつ安全に食べられる」と述べています。
#DYK? Washing raw chicken can spread germs around your kitchen and make you sick. Don’t wash raw chicken—just cook it to an internal temp of 165°F so it is safe to eat. https://t.co/0WBGnCGFZu pic.twitter.com/Ckqi0GJ2iI
— CDC (@CDCgov) April 27, 2022
それでも洗いたい場合は?
それでも、どうしても鶏肉を洗いたいという人もいるでしょう。
いくら合理的に説明されても、一度染み付いてしまった習慣というものは変えることが難しいものです。
またパックに溜まった肉の汁気(ドリップ)を鶏肉から落としたいなどの理由で、鶏肉を洗浄したい場合もあるでしょう。
そんなときは水道の蛇口からではなく、水を張った容器の中で優しく洗うか、濡れたキッチンペーパーで拭き取る方法が推奨されています。
当然ながら、使い終わった容器は洗剤でよく洗い、キッチンペーパーはすぐに捨てなければなりません。
鶏肉を触った手も入念に洗う必要があります。
こうした工夫により、鶏肉の二次汚染のリスクを減らし、水回りも清潔に保つことができるでしょう。