連星ブラックホールは予想以上にありふれている?
研究チームは今回、合体した銀河の理解を深めるべく、地球から「かに座」の方向に5億光年離れた場所にある天体・UGC4211(2つの銀河が合体していることで知られる)に望遠鏡を向けました。
観測には、チリのアタカマ砂漠にある「アルマ望遠鏡(ALMA)」を用いています。
ALMAはミリ波・サブミリ波という波長の短い電波を使って塵やガスを詳細に観測できる、地球上で最も強力な望遠鏡の一つです。
その結果、チームはまったく予想していなかった天体を発見しました。
なんと合体した銀河の中心付近に並ぶ2つの超大質量ブラックホールが見つかったのです。
すべての銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在すると考えられており、これらも合体前の銀河がそれぞれ持っていたものと思われます。
2つのブラックホールは、銀河の衝突で発生したと見られる塵やガスを勢いよく吸い込んでおり、活動銀河核と呼べる状態だという。
研究者らはそれを「まるで宴会(banquet)のようだ」と形容しています。
さらに両者は互いにわずか750光年しか離れておらず、これまで観測された二重活動銀河核の中で最も近い距離にあったとのこと。
750光年は光のスピードで750年かかる距離ですが、宇宙の規模からすると極めて短い距離です。
このペアは塵やガスを吸い込むことで同時に成長しており、いずれは一つに合体すると見られています。
今後のプロセスとしては、2つのブラックホールが大きくなりながら互いの周囲を回り始めて摩擦が起こります。
その後、両者の間をガスや星が通り過ぎるにつれてブラックホール同士の距離が狭まり、最後は一つに合体します。
両者はすでに巨大なブラックホールであるため、衝突時にはこれまで検出されたどのブラックホールよりも遥かに強力な重力波が生じるという。
ただ合体までにはまだ数億年の時間があるようです。
今回の発見について、NRAOの天文学者で研究主任のマイケル・コス(Michael Koss)氏は「連星ブラックホール(ブラックホールとブラックホールの連星系)とそれを生み出す銀河同士の合体が、宇宙では予想以上にありふれたものである可能性を示している」と指摘。
「銀河の合体は遠い宇宙ではずっと一般的であることが分かっているので、こうしたブラックホールの連星系も従来考えられているより一般的なのかもしれない」と述べました。
理論的には、銀河の合体による超大質量ブラックホール連星が誕生する可能性は指摘されていましたが、銀河衝突後の天体の動きは複雑であるため観測による十分な報告はされていませんでした。
チリ・カトリック大学(PUCC)の天文学者で同チームのエゼキエル・トライスター(Ezequiel Treister)氏は「これが本当であれば、将来的に、宇宙のあらゆる場所でブラックホール同士の合体による重力波現象が頻繁に観測されるようになるでしょう」と話します。
また本研究の成果は、ブラックホールの存在だけでなく、銀河の合体によって起こるプロセスを理解する上でも役に立ちます。
というのも、私たちが暮らす天の川銀河と近傍のアンドロメダ銀河はいずれ合体する運命にあるからです。
現時点で、天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突は約45億年後に起こると予測されています。
その時にはもう人類は存在していないかもしれませんが、今回観測した天体をより詳しく調べることで、天の川銀河の進む未来が見えてくるかもしれません。