「魂の重さ」を測ろうとしたアメリカ人医師
米マサチューセッツ州の医師、ダンカン・マクドゥーガル(1866〜1920)は、死にゆく人間の体重変化を記録することで「魂の重さ」を計測しようとした実験で知られます。
マクドゥーガルは霊魂の存在を強く信じており、人が死ぬと魂が体から抜け出て、天国で永遠に生き続けると考えていました。
さらに医師である彼は「魂には重さがあり、死の前後の患者の体重を測ることで、その存在を証明できる」との説を唱え始めたのです。
そこでマクドゥーガルは1901年、6人の患者と15匹の犬によって、死亡前後の体重測定の実験を行いました。
患者には高齢者の養護施設から死期の近い結核患者4名、糖尿病患者1名、症状不明の患者1人を被験者としています。
(死亡時に動かれると正確に体重が測れないため、特に肉体的に憔悴し切っている患者を選んだという。)
マクドゥーガルは体重の記録のために、わずかな重さの変化も計測できる高感度の秤を取り付けた特殊なベッドを用意。
そこに患者を寝かせて、死亡時までに横たわっていた総時間や死亡時刻、息を引き取る瞬間の体重変化など、あらゆるデータを細かく記録しました。
加えて、汗や尿などの体液、酸素や窒素などの気体の損失量も計算に入れていたといいます。
その結果、患者は死の際に、呼気に含まれる水分の揮発や汗の蒸発とは関係のない何らかの重量を数グラム〜40グラムほど失うことが示されました。
そしてマクドゥーガルは、実験中のトラブルがなく最も正確に測定できた患者において「4分の3オンス(21.3グラム)」減ったことが確認されたため、これを正式な「魂の重さ」と結論づけ、科学論文として発表したのです。
また、一部の患者では体重変化に時間差が見られたのですが、彼はこれを「魂が体を離れるタイミングが人によって違うからでだろう」と主張しています。
一方でマクドゥーガルは「魂は人間のみにあり、他の動物には存在しない」と考え、これを15匹の犬で実験しました。
同じ実験手順で計測したところ、人間のような体重変化が見られなかったことから「動物には魂がない」と結論づけています。
(問題は病気や死期の近い犬が見つからなかったことで、彼は健康な犬を毒殺したと見られている)
これらの実験結果は1907年に、新聞紙『The New York Times』や医学雑誌『American Medicine』に掲載されました。
しかし当然というべきか、彼の実験は各方面から科学的にも倫理的にも多くの批判にさらされました。
特に、内科医のオーガスタス・P・クラーク氏(1833〜1912)は、この実験で見られた体重変化について次のように指摘します。
「死後の体重の減少は生理的な要因で説明できる。
人体では死の瞬間から肺が血液を冷やさなくなるため、体温がわずかに上昇し、皮膚に汗をかくことで揮発する体液が増加し重さの減少が見られたのだ。
犬も汗を出すが、主に前足から汗をかくため、体重の減少は最小限で済んだと見られる」
これに対しマクドゥーガルも「死亡前後の水分や気体の変動はちゃんと測定したし、死の直後に体温上昇で肌が温まる事実はなかった」と反論。
一時期、クラーク派とマクドゥーガル派で意見が二分されたという。
しかし今日の見解では、あらゆる気体・体液の変動を正確に監視していたというマクドゥーガルの主張は根拠が薄く、説明の曖昧さ、被験者数の少なさを含め、実験結果の科学的な信憑性はまったく認められていません。
ところが皮肉にも、この実験をきっかけとして「人間の魂の重さは21グラムである」という説だけが根強く浸透してしまったのです。
確かに、この研究は魂に重さという物理量を当てはめる点が非常にユニークであり、21グラムという数字も絶妙なリアリティを感じさせます。
そのため多くのクリエイターに創作上のインスピレーションを与えたのでしょう。
ポップカルチャーにおける「21グラム」の引用の人気度がそれを証明しています。