インタビューで語られた内容とは?
VRTの広報担当者によると、インタビュー映像のフィルムリールは、ルメートルの名前のスペルを間違えてラベリングしていたことで、膨大なアーカイブの中のどこに保管したか分からなくなっていたという。
そのため担当者はこのフィルムの捜索を「干し草の中に落ちた針を探すようなものだった」と話しています。
しかし今回ようやく再発見され、デジタル上で復元されたことで、誰でも簡単に視聴できるようになりました。
インタビューはフランス語で行われ、映像にはフラマン語(ベルギーおよびフランス北東部で話されている言語)の字幕が付けられています。
映像はインタビュアーが冒頭で尋ねたと思われる質問に答えるところから始まります。
質問の音声は入っておらず内容は不明ですが、ルメートルはすぐに自身の「原始的原子仮説」と、当時の宇宙観として強く支持されていた「定常宇宙論(Steady-State Cosmology)」との違いを語り始めました。
当時、宇宙を不変と考える人は多かったものの、エドウィン・ハッブルが遠方銀河の観測から宇宙が膨張していることを証明したため、この問題を説明する理論が求められていました。
「定常宇宙論」はそんな理論の1つで、1948年にイギリスの天文学者フレッド・ホイル(1915〜2001)らが提唱した宇宙モデルです。
(ちなみに前項でも話したルメートルやガモフの理論を批判して「ビッグバン」と呼んだのがホイル)
「定常宇宙論」とは簡単に言えば、「宇宙空間自体は膨張しているが、無から物質が生じることで宇宙に存在する天体の密度は常に一定に保っており、宇宙の構造は時間変化することはない」と説明している理論です。
ルメートルは「非常に昔、宇宙の膨張理論が登場する前 (約 40 年前)、私たちは宇宙が静的であると予想していました。何も変化することはないと考えていたのです」と話し、その考えを今も引きずっているのがホイルの理論だと切り出しています。
「定常宇宙論」は宇宙に始まりも終わりも必要としなかったため、当時は支持されていました。
しかしこれに対し、ルメートルはこの理論が「新たな星が誕生するのに必要な水素がどこからともなく、まるで幽霊のように現れた場合のみ、成り立つでしょう」と指摘。
「質量保存の法則に反している」と定常宇宙論を否定しています。
その代わりにルメートルは、先に説明した「特異点から始まる宇宙膨張説こそ正しい」と話しています。
もう一つのハイライトは、インタビュアーに「あなたの科学的理論と宗教的信条は矛盾しないのか」と質問されている点です。
ルメートルはカトリック司祭の一面も持ち、彼の説はしばしば「キリスト教の天地創造の教義を証明したいからではないか」と批判されていました。
しかし、ルメートルはこの質問について「私は宗教的な下心から自説を擁護しているのではありません」と主張。
「宇宙の始まりは想像を絶するものであり、世界の現状ともあまりに違うため、そのような疑問は生じない」と続けています。
つまり、科学と宗教はまったく別の問題であり、両者を結びつけて考えることは無意味であると述べていました。
映像を見た米ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の宇宙物理学者であるサティヤ・ゴンチョ(Satya Gontcho)氏は、こう述べています。
「私たちが現在取り組んでいるビッグバン理論の枠組みを考え出した先人たちの中で、自らの仕事について話している記録はほとんど残されていません。
そのため、彼の言葉の一つ一つを聞くことは、まるで失われた時間を覗き見ているような気分でした」
インタビューのフル映像はこちらからご覧いただけます。