卵子の追加生産能力は新女王になるためのものだった
ハダカデバネズミは通常、地下のトンネル内部に70~80匹からなる大規模なコロニーを作って生活しており、アリやハチのように、繁殖を行えるのは1匹の女王ネズミのみとなっています。
哺乳類でありながら虫のような「女王」の仕組みを採用しているのは奇妙に思えますが、地下生活を行っているハダカデバネズミたちは他の集団との接点が薄く、集団内部で近親交配が繰り返され、どの個体も同じような遺伝子を持っています。
そのため自分が産んだ子孫も他人が産んだ子孫も、遺伝的な違いが少ないく、出産に専念する女王を設置して、他の個体が巣の運営にあたったほうが、結果的に遺伝子の存続が上手くいく可能性が高くなると考えられます。
ただそれでも、女王となれば自分の遺伝子をより強く子孫に伝達できるといううま味があるのも事実です。
そのためコロニーの女王が死亡したり追放された場合、他のメスたちの生殖機能が一気に活性化し、次の女王の座をかけて競争が行われることになります。
ただアリやハチの場合には、どの子孫が次の女王になるかは、与えられるエサなどの差別を通じてあらかじめ決まっていますが、ハダカデバネズミの場合は「どのメスにも」新女王になる権利があります。
そこで研究者たちはハダカデバネズミの従属メス(働きアリのような存在)をコロニーから連れ出して、女王が存在しない環境に置き、女王化するプロセスを確かめてみました。
すると、女王がいなくなってしばらくすると従属メスの卵巣内部で卵子前駆細胞が分裂をはじめ、新たな卵子を追加生産しはじめたことが判明します。
ハダカデバネズミが大人になっても卵子の追加生産能力を獲得した背景には、産める期間を増やして仲間を多くするというより、失われた女王(繁殖役)の役割を迅速に引き継ぐという目的があったのです。
研究者たちは、このハダカデバネズミの卵子追加生産能力のメカニズムを解明して人間にも応用したいと述べています。
人間もハダカデバネズミも、卵子形成のプロセスそのものはほとんど同じであり、それを誕生後も維持できるかだけが違っています。
もし卵子形成プロセスの維持にかかわる遺伝的なスイッチをみつけ制御する薬を開発できれば、女性の妊娠可能期間のリミットを、現在の40代から寿命ギリギリまで大きく延長することも可能になるでしょう。